プロジェクト

深宇宙探査技術実証機「DESTINY⁺」

©JAXA/カシカガク

概要

深宇宙探査技術実証機DESTINY⁺ (Demonstration and Experiment of Space Technology for INterplanetary voYage with Phaethon fLyby and dUst Science)は、イプシロンロケットで打ち上げられる小型衛星により、ふたご座流星群の母天体である小惑星(3200) Phaethon(フェートン)を探査する計画です。
フェートンは、太陽に最も近づいた時で0.14au(1auは地球と太陽の平均距離)、最も遠ざかる時で2.4auの楕円軌道を回っており、地球軌道を秒速35kmで横切ります(図1)。

図1.小惑星Phaethonの軌道(出典:Sky & Telescope, 2014)

フェートンは、毎年12月中旬にふたご座流星群としてたくさんの塵(ダスト)を地球に運んできています。太陽に最も接近する最大級小惑星(直径約6㎞)であり、太陽に最接近する際は天体表面が700℃以上に加熱されます。
また、太陽に最接近する数日間のみ彗星のように塵(ダスト)を吹いていることが観測されており、「活動的小惑星」と呼ばれます。活動的小惑星であるフェートンからどのようにダストが噴き出しているのかは地球からの望遠鏡観測ではわからないため、天文学・惑星科学の分野で大きな謎として様々な議論がなされています。また、太陽に非常に接近するにも関わらず、彗星のようには崩壊せず、1.4年周期で太陽の周りを公転しているのも特筆すべき点です。

そこで、DESTINY⁺計画では、探査機でフェートンに接近して、詳細な地形を観測したり、フェートン近傍のダストの化学組成や質量などを調査します。DESTINY⁺の観測により、太陽にあぶられ、地球に毎年ダストをもたらす活動的小惑星の実態解明を目指します!

探査機は秒速約33㎞でフェートンに約500kmまで接近し、望遠カメラでフェートンを追尾しながら表層の地形を調査したり、複数波長の分光カメラにより表層の物質分布を調べます。

また、ダストアナライザにより、フェートンから放出されたダストの化学組成や速度、サイズ、到来方向をその場で分析します。さらに、衛星が地球周回軌道を離れてからフェートン到着までの惑星間航行期間中は、ダストアナライザにより惑星間ダスト及び星間ダストの分析も行います。DESTINY⁺は、追尾望遠カメラ、マルチバンドカメラ、ダストアナライザの3つの観測機器科学観測を行います。

2017年12月に、フェートンは地球から約1000万kmの距離まで接近した際、世界中の望遠鏡でフェートンの観測を行われました。米国のアレシボ電波望遠鏡の観測により、フェートンの姿がぼんやりと明らかになりました。

深宇宙探査技術実証機「DESTINY⁺」のロゴ

経緯と体制

DESTINY⁺計画は、JAXAの2015年度イプシロンロケットによる公募型小型ミッションとして提案し、2017年度に採択されました。現在は打ち上げを目指して計画を進めています。

DESTINY⁺は、工学実証と理学観測の合同ミッションであり、JAXAと千葉工大の共同で計画を進めます。ロケット及び衛星の開発はJAXAが進め、サイエンス計画の推進と観測機器の開発を千葉工大が中心となって進めます。

科学的背景

年間4万トンを超える塵(ダスト)が地球外から地表に供給されています。成層圏や地表で回収されたダストの分析結果から、惑星間ダストは、隕石の数倍以上の濃度の炭素や有機物を含むことがわかっています。したがって、ダストは、地球外から地球への炭素や有機物の主要な供給源だと考えられており、地球外由来の炭素や有機物が地球生命の出発物質になるかもしれないという仮説検証の鍵となる物質です。近年、惑星科学や天文学の分野で、上記の仮説検証を目指しダストの研究が精力的に進められています。

図2.地球に飛来するダストの輸送経路

地球に飛来するダストの輸送経路としては大きく分けて二つあります(図2)。 一つ目は、不特定多数の彗星や活動小惑星から放出されたダストのうち、サイズの小さいもの(数ミクロンサイズ以下)が黄道面(地球などの惑星が太陽を公転する軌道面)に沿って分布する「惑星間ダスト」です。これらのダストは、太陽を公転しながら太陽放射圧の摂動により徐々に太陽に落ちて行く過程で、地球に飛来します。(図2の①の経路)。もう一つは流星群のダストトレイル経由です(図2の②の経路)。流星群とは、地球軌道と交差する軌道を持つ彗星や小惑星から放出した数百ミクロンサイズ以上のダストがその天体の軌道に沿って帯状に分布するダストトレイルを地球が横切る際、多量の流星が観測される現象です。数百ミクロン以上のダストは、地球大気圏を通過する際に高温高圧のプラズマ状態となり発光するため流星として観測されます。流星群のダストは、ダストの由来元の天体(母天体)がわかっている点で重要です。流星群の母天体は一般的に彗星ですが、ふたご座やしぶんぎ座流星群のように小惑星由来のものもあります(表1)。

表1.主要流星群とその母天体 *ZHR: 天頂出現数(Zenith Hourly Rate)1名の観測者が観測できる流星の理論的な最大数のこと。流星群の放射点が天頂にあって、光害のない理想的な条件で見ることのできる1時間あたりの流星の数。

科学的課題と科学目標

DESTINY⁺は以下の三つの科学的課題に取り組みます。

惑星間ダストの全体像及び粒子毎の由来

惑星間ダストは不特定多数の彗星や小惑星由来のダストの混合です。これまでも地上で回収されたダストの分析や黄道ダストの望遠鏡観測から、惑星間ダストの全体像を理解する研究が行われてきましたが、彗星と小惑星の寄与の割合について諸説あり、惑星間ダストの全体像は現状不明です。本ミッションでは、惑星間ダストの粒子毎に、サイズ、速度、到来方向、化学組成をその場で測定することで、この論争への決着を目指します。地上や成層圏で回収された惑星間ダストは大気圏突入時の加熱や破壊の影響を受けている。惑星間空間でダストをその場分析により、地球大気圏突入の影響無しの地球飛来ダストの実態が解明されることが期待されます。

1auに流入する星間ダストの化学組成

惑星間ダスト の中には5%程度の存在度で太陽系外の星間空間由来のダストが含まれることがわかっています。HELIOS, GALILEO, ULYSSES, CASSINI ミッションでの星間ダストの観測結果から、ダストサイズは10 ミクロン以下で、惑星間ダストに比べると小さいです。望遠鏡によるお星間雲の赤外線観測では、ダスト成分もガス成分もC、N、O に富み、星間ダスト成分の約40%は有機物だと推定されています。一方、土星探査機Cassini 搭載に搭載されたCosimic Dust Analyzer (CDA)で観測された36個の星間ダストの観測からは、有機物や炭素は検出されていません。本ミッションでは2年間以上に及ぶ惑星間航行中、ダストを継続的に観測し、1auまで入り込む星間ダストをその場分析し、太陽系内の星間ダストの有機物や炭素の有無や存在度の解明を目指します。

活動小惑星からのダスト放出機構の理解

近年の地上望遠鏡やハッブル望遠鏡観測では、小惑星軌道を持つ彗星や彗星活動を見せる小惑星が小惑星帯で発見され、小惑星表面に氷や有機物が見つかっています。また、彗星と小惑星のそれぞれの特徴を合わせ持つような天体(メインベルト彗星、枯渇あるいは休眠彗星及び活動小惑星)の発見が相次ぎ、従来の彗星と小惑星の単純な定義が見直されつつあります。フェートンはアポロ型の軌道を持つ近地球型小惑星ですが、ふたご座流星群の母天体であり、近日点ではダストの放出が確認されている、活動小惑星です、彗星のようなコマやダストテイルは見られないため、どのようにフェートンからダストが放出されているかはわかっていません。本ミッションでは、フェートンに接近して表層の地形や地質を観測することで、フェートンのような活動小惑星からのダスト放出機構の解明を目指します。

搭載観測機器

DESTINY⁺では、ダストアナライザ(DESTINY⁺ Dust Analyser(DDA))、追尾望遠カメラ(Telescopic Camera for Phaethon, TCAP)、マルチバンドカメラ(Multiband Camera for Phaethon, MCAP)の三台の観測機器の搭載を計画しています。DDAは,カッシーニ探査機搭載CDAを改良した小型軽量かつ高性能モデルであり、ドイツとの国際協力により、シュツットガルト大学チームが開発を行い、提供予定です。TCAP及びMCAPは千葉工業大学惑星探査研究センターが中心に開発を行う計画です。(図3)

図3.DESTINY⁺に搭載される三つの観測機器

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関連リンク

お問い合わせ

荒井 朋子 (アライ トモコ)
千葉工業大学 惑星探査研究センター 主席研究員
TEL/FAX: 047-478-0320 / 047-478-0372
E-Mail: tomoko.arai [at] it-chiba.ac.jp