PERCとは

所長

千葉工業大学惑星探査研究センター所長

松井孝典

地球の枠を超え、宇宙のスケールで「生命」の解明に焦点を当てよう

生命ってなんだろう、どのようにして誕生したのだろう、という新たな「知」の開拓が21世紀を境に生まれてきました。科学において、人間はつねに新しい「知」の地平を切り拓いてきたといえます。その対象は、当初の頃は地球という星がどのようなものかを追及することでした。そのため、太陽系の惑星を調べる必要があったのです。研究が進み、地球のことが大体わかるようになり、今世紀に入ってからは、地球全体よりもそこに住む「生命」について明らかにしようという動きがでてきました。現在では、地球上にしか生命の存在を確認していないわけですが、宇宙というスケールで、もう一度生命というものに研究の焦点を当ててみようという動きに変わってきたのです。その「知」の体系のことを「アストロバイオロジー」と呼んでいます。これこそ私の研究テーマなのです。「アストロバイオロジー」は、もともとアメリカのNASAが命名した言葉ですが、21世紀の科学の根幹を成す学問になると私は思っています。

20世紀までにわれわれ人間が確認した事象はいくつかあります。学問分野でいえば、物理学や化学は宇宙の中で成立するということを確かめました。つまり物理学や化学を利用することで、宇宙のすべてを理解できる。もっといえば、物理学や化学は宇宙において「普遍性」があるといえます。一方、いまの生物学はどうでしょう?対象となる生物は地球上にしかないので、宇宙スケールで成立する学問にはなっていないのです。私自身、理論上でいうと、地球上だけではなく宇宙にも生命というものは、たくさん存在するはずだと思っています。それを実際に確認しないとスタートしない。それが21世紀の人類の科学的課題になるだろうと思っています。その課題を解くのが、アストロバイオロジーという学問であり、宇宙のスケールで「生命の普遍性」を明らかにしようとするものなのです。宇宙には地球とよく似た環境や物質がいくつもあり、生命が存在する世界が他にあっても不思議ではありません。20世紀の終わり頃から、実際に地球と似た天体が銀河系の中で見つかり始めています。そこで今後は、宇宙規模で生命の起源などをみんなで研究し、論じようということになってきたのです。

先端技術やロボット工学を応用し、惑星探査プロジェクトを全学で推進

私たちは、2009年4月から千葉工業大学で「惑星探査研究センター」を始動しました。惑星探査とは、無人の探査用衛星の中にロボットの観測装置を搭載して惑星に飛ばし、さまざまな調査を実施するものです。その惑星の岩石がどのような物質でできているか、地形がどのように形成されたか、有機物の有無や生命の痕跡までを、ロボットを使って探査するのです。

まず、惑星探査のためのプロセスである種々の実験や理論的な研究を積み重ねていくことが先決です。惑星環境を模した実験装置や新しい観測機器の開発など、未知の領域も多いため、先端的な科学技術が要求されます。そのためには、日本のJAXAをはじめ、NASA(米国)やESA(欧州)など国内外の国家的プロジェクトと連携した活動が必要です。また、千葉工業大学には、高度なロボットを開発するfuRo(未来ロボット技術研究センター)や学科の枠を超えた工学技術の連携体制が整っています。われわれの知識の領域を広げるために、今後はこの大学の優れたロボティクスや先端技術を応用し、惑星探査の研究に役立てようと考えています。

学問では何のために研究をするのかを明確にすることが大切です。「惑星探査研究センター」の目標は、地球そして生命の起源を知り、未来を探り、人類にとって新たな「知」の世界を切り拓いていくことにあります。そのためには、私たちは「地球人」にとどまらず、惑星や生命のことをもっと広い世界、宇宙からみることのできる「宇宙人」になる必要があると考えています。このセンターを拠点に、新たな「知」への探究心が、果てしない宇宙へと広がっていくことでしょう。

プロフィール

松井孝典

Takafumi Matsui

千葉工業大学学長。
1946年静岡県生まれ。理学博士。東京大学理学部卒業、同大学院博士課程修了。
専門は 地球物理学、比較惑星学、アストロバイオロジー。

NASA 客員研究員、マサチューセツ工科大学及びミシガン大学招聘科学者、マックスプランク化学研究所 客員教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授(理学系大学院教授兼担)を経て東京大学名誉教授。2009年4月より千葉工業大学惑星探査研究センター所長、2019年より千葉工業大学地球学研究センター所長。2020年6月より千葉工業大学学長(第13代)。
2012年発足した政府の宇宙政策委員会委員(委員長代理)、静岡文化芸術大学理事、2018年3月から岐阜各務原航空宇宙博物館館長兼理事長、そのほかにも各種財団の理事、評議員など多数。

1986年、学術誌『ネイチャー』に海の誕生を解明した「水惑星の理論」 を発表し、世界の地球科学者から注目を集めた。日本の惑星科学の第一人者。 NHK の科学番組『地球大紀行』の制作に関わり、企画段階から参加した。学際的な地球学を提唱している。1988年、日本気象学会から大気・海洋の起源に関する新理論の提唱に対し「堀内賞」、2007年、著書『地球システムの崩壊』(新潮選書)で、第61回毎日出版文化賞(自然科学部門)を受賞。
このほかにも『地球進化論』『地球倫理へ』『宇宙人としての生き方』『われ関わる故にわれ在り』『文明は見えない世界がつくる』『138億年の人生論』など著書多数

著作リスト

著書

  • 『惑星探査と生命・惑星の表面』(恒星社厚生閣 現代天文学講座 1979年)
  • 『パノラマ太陽系』(講談社ブルーバックス 1981年)
  • 『青い惑星・地球』(講談社ブルーバックス 1982年)
  • 『惑星への旅』(日本放送出版協会 1985年)
  • 『水惑星はなぜ生まれたか』(講談社ブルーバックス 1987年)
  • 『地球=誕生と進化の謎』(講談社現代新書 1990年)
  • 『地球進化論』(岩波書店 1988年、岩波現代文庫 2008年)
  • 『地球・46億年の孤独』(徳間書店 1989年、徳間文庫 2000年)
  • 『サンサーラ地球・宇宙・人間』(徳間書店 1989年)
  • 『地球=誕生と進化の謎』(講談社現代新書 1990年)
  • 『宇宙誌』(徳間書店 1993年、徳間文庫 1998年、岩波現代文庫 2009年、講談社学術文庫 2015年)
  • 『最後の選択―文明・人類はどこへ行くのか』(徳間書店 1994年)
  • 『地球進化探訪記』(岩波書店・岩波科学ライブラリー、1994年)
  • 『地球倫理へ』(岩波書店 1995年)
  • 『150億年の手紙』(徳間書店 1995年)
  • 『惑星科学入門』(講談社学術文庫 1996年)
  • 『地球・宇宙・そして人間』全3巻(徳間書店、1987-95年)
  • 『巨大隕石の衝突―地球大異変の歴史を読み解く』(PHP研究所 1997年)
  • 『地球学―長寿命型の文明論』(ウェッジ 1998年)
  • 『地球大異変―恐竜絶滅のメッセージ』(ワック 1998年)
  • 『再現!巨大隕石衝突―6500万年前の謎を解く』(岩波書店 1999年)
  • 『地球・46億年の孤独―ガイア仮説を超えて』(徳間書店 2000年)
  • 『1万年目の「人間圏」』(ワック 2000年)
  • 『絶滅恐竜からのメッセージ―地球大異変と人間圏』(ワック 2002年)
  • 『宇宙からみる生命と文明―アストロバイオロジーへの招待』(日本放送出版協会、2002年)
  • 『宇宙人としての生き方』(岩波新書 2003年)
  • 『宇宙生命、そして「人間圏」』(ワック 2005年)
  • 『宇宙で地球はたった一つの存在か』(ウェッジ 2005年)
  • 『松井教授の東大駒場講義録』(集英社新書 2005年)
  • 『コトの本質』(講談社 2006年)
  • 『われわれはどこへ行くのか?』(ちくまプリマー新書 2007年)
  • 『「わかる」と「納得する」―人はなぜエセ科学にはまるのか』(ウェッジ 2007年)
  • 『地球システムの崩壊』(新潮選書 2007年)
  • 『探査機でここまでわかった太陽系』(技術評論社「知りたい!サイエンス」、2011年)
  • 『我関わる、ゆえに我あり ―地球システム論と文明』(集英社 2012年)
  • 『生命はどこから来たのか? アストロバイオロジー入門』(文春新書 2013年)
  • 『スリランカの赤い雨 生命は宇宙から飛来するか』(角川学芸出版 2013年)
  • 『天体衝突 斉一説から激変説へ 地球、生命、文明史』(講談社ブルーバックス 2014年)
  • 『銀河系惑星学の挑戦 地球外生命の可能性をさぐる』(NHK出版新書 2015年)
  • 『文明は〈見えない世界〉がつくる』(岩波新書、2017年)
  • 『138億年の人生論』(飛鳥新社、2018年)

共著

  • 『地球惑星科学入門・太陽系のなかの地球』(岩波書店「岩波講座 地球惑星科学I」、1996年)
  • 『いま、いのちを考える』(梅原猛、河合隼雄との共著、岩波書店、1999年)
  • 『親子で読もう 地球の歴史』(岩波書店 2012年)

訳書

  • J.ネーゲンダンク『身近な地球科学 宇宙船「地球号」を探る』大久保修平・本田勝彦共訳(講談社 1980年)
  • ジョナサン・ワイナー『プラネット・アース』監訳 (旺文社 1986年)
  • パトリック・ムーアほか『われらの太陽系 3・水星のすべて』(朝倉書店 1986年)
  • チャンドラ・ウィックラマシンゲ『彗星パンスペルミア』監修・所源亮訳(恒星社厚生閣 2017年)
  • チャンドラ・ウィックラマシンゲ『宇宙を旅する生命』監修・所源亮訳(恒星社厚生閣 2018年)

監修

  • 『宇宙はこうなっている』(徳間書店 1993年)