所長メッセージDirector's message

荒井 朋子Tomoko Arai

2009年4月、千葉工業大学惑星探査研究センター(PERC)は松井孝典前所長と私を含む7名の研究員で始動しました。私立大学に設立された惑星探査と惑星科学を専門に研究を行う日本初の画期的な研究センターです。惑星科学・天文学・生物学などの様々な分野の専門家を配し、宇宙規模で「生命の普遍性」を究明するアストロバイオロジーという学問を、探査を主軸に、理論・観測・実験・分析という多角的な手法で進めてきました。JAXAをはじめ、NASAやESAなどの宇宙機関と連携を図り、政府主導の大型探査計画に参画すると共に、PERC独自の小型宇宙プロジェクトを複数立ち上げ、太陽系の成り立ちや地球生命の起源と進化に関わる研究を宇宙探査により精力的に推進してきました。

2023年4月現在、PERCには常勤・非常勤合わせ36名の研究員が在籍しています。プロジェクトや研究テーマの数も増え、内容も多岐に渡り、PERCの研究活動は著しく進化しています。また、この14年間で宇宙を取り巻く状況も大きく変わっています。宇宙開発や探査は、従来の官主導型から民間主導の新たな潮流が生まれています。そして、人類の活動領域が地球を飛び出し、月そして火星へと拡がろうとしている今、宇宙への敷居は下がり、宇宙がこれまで以上に身近になっています。このような時代の転換期には、従来の価値観に囚われず、柔軟な発想で積極的に変革に挑戦していくことが重要です。

月や火星は、近い将来第8、第9の大陸となり、我々の子孫の生活の拠点となるでしょう。そのため、月や火星に係る惑星科学の知見や月惑星探査の技術は、単なる科学の興味を超えて、人類が世代を超えて安全な生活を育むために必要不可欠だと言えます。地球周回や月そして火星など人類の活動領域での宇宙開発や探査では、官主導と民間主導の連携あるいは民間主導へと転換する一方で、太陽近傍や火星より外側の領域そして太陽系外の科学探査には、引き続き官主導の計画が必要です。このような状況で、例えば、地球周回軌道におけるスペースデブリ問題や月面有人活動におけるダスト問題への対応には、官民学の知見と技術を結集することが重要と考えます。PERCは私立大学に設置された研究センターという存在を生かし、柔軟に機動的にこれらの課題に対応すべく、官民学におけるシーズとニーズをつなぐ拠点を目指します。

多様な分野の専門家が在籍するPERCならではの独自な発想とこれまで培ってきた多角的研究手法により、マルチスケールで太陽系そして宇宙を捉え、「生命の普遍性」という大きな課題に挑戦し続けます。また、複数の先端的研究センターを有する本学の強みを生かし、研究センター間の連携による新奇な着想に基づく企画も積極的に進めていきます。さらに、開かれた研究センターとして、国内外の大学・研究機関との人的交流や人材育成を積極的に進め、持続的成長を目指します。松井前所長が人生をかけて挑み続けた「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこに行くのか」という人類普遍の究極の問いに科学と技術により答えを出すべく、我々PERC所員一同、より一層邁進いたします。引き続き、ご指導、ご支援、ご協力を賜りますようお願いいたします。

略歴

東京大学理学部地学科卒業、同大学大学院理学系研究科博士課程修了。専門は月惑星科学。大学院在学中、日本学術振興会特別研究員としてNASAジョンソンスペースセンター及びカリフォルニア大学ロサンゼルス校に留学。学位取得後、宇宙開発事業団(現:宇宙航空研究開発機構)にて、国際宇宙ステーション(ISS)の生命科学実験棟『セントリフュージ』や月探査衛星『かぐや』の開発に従事。

退職後は国立極地研究所、東京大学総合研究博物館を経て2009年4月の千葉工業大学惑星探査研究センター設立時に上席研究員として着任、2017年4月に主席研究員、2023年4月から現職。ISSからの長期流星観測プロジェクト『メテオ』のプロジェクト責任者、日本の次期小惑星探査計画『DESTINY⁺(デスティニー・プラス)』の理学ミッション責任者を務める。2013年に米国南極隕石探査に参加。2014年に小惑星22106Tomokoaraiが命名された。