ニュースNews

世界初の方式の大面積ダストセンサーを搭載した宇宙塵探査衛星ASTERISC(アスタリスク)打ち上げ! ~「天然の宇宙塵」と「人為的な微小スペースデブリ」の観測に挑む ~

  • 惑星探査研究センターの超小型衛星2号機である宇宙塵探査実証衛星ASTERISC(アスタリスク)が宇宙航空研究開発機構(JAXA)の革新的衛星技術実証2号機の一つとしてイプシロンロケット5号機により、2021年10月1日(金)9時48分~9時59分(日本時間) ※打上げ予備期間: 2021年10月2日(土)~2021年11月30日(火) に打ち上げられる予定です 。
  • ASTERISCは、独自に開発した世界初の方式の大面積膜型ダストセンサー(粒子観測装置)を搭載し、軌道上の宇宙塵と微小スペースデブリ(宇宙ごみ)を観測することを目的とする3Uキューブサットです。併せて、将来ミッションを視野に入れた国産の衛星バス技術の軌道実証も行います。
  • 衛星サイズより大きい膜型ダストセンサーを用いることで、軌道上の数が少ない宇宙塵を十分量観測し、太陽系史の様々なプロセスに関わってきたとされる宇宙塵の分布や特性などの詳細を明らかにしたいと考えています。また、実態がよくわかっていない微小スペースデブリの観測を通じて、宇宙環境問題への貢献も期待しています。

<概要>

千葉工業大学惑星探査研究センターの超小型衛星2号機である宇宙塵探査実証衛星ASTERISC(アスタリスク)(図1)が宇宙航空研究開発機構(JAXA)の革新的衛星技術実証2号機の一つとしてイプシロンロケット5号機により2021年10月1日(金)9時48分頃~9時59分頃(打上げ予備期間: 2021年10月2日(土)~2021年11月30日(火))に内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられる予定です。同時に打ち上げられる衛星9機のうちASTERISCは3番目にイプシロンロケットのPBS(Post Boost Stage)から分離され、高度560kmの地球周回円軌道に投入されます(革新的衛星技術実証2号機/イプシロンロケット5号機フライトシーケンスCG

軌道投入後初めてのASTERISCの可視時刻(ASTERISCと千葉工大地上局が通信できる時刻)は2021年10月1日(木)20時31分22秒~20時43分40秒頃になる見込みで、この時刻からASTERISCの運用が開始されます。運用においては、千葉工大局からASTERISCにコマンドアップリンク(指令)電波が送信され、その指令に応じてASTERISCから地上局にテレメトリダウンリンク(観測データなど)電波が送信されます。一連の衛星運用を千葉工大内の施設(衛星通信用パラボラアンテナ含む)のみで実施できることがASTERISC運用の特徴です。ASTERISCは1日2回程度の可視が予定され、約3年間運用を実施する計画です。

ASTERISCは、独自に開発した世界初の方式の膜状の粒子観測装置(ダストセンサー)を搭載し、その膜にぶつかった宇宙塵と微小なスペースデブリ(宇宙ごみ)を観測することを目的としています。軌道投入後のASTERISC運用のシーケンスは次のようになります。ASTERISCは、軌道投入後のオート制御の初期シーケンスによって、衛星側面に設置された膜型ダストセンサー(8cm×8cm)を用いたミニマム観測ミッションを開始します(図1左写真の衛星前面のオレンジ色の膜が8cm×8cmの膜型ダストセンサー)。その後、1か月~数か月程度の初期運用においては、ミニマム観測と並行して、衛星の健全性を確認します。衛星が健全であることを確認した後、地上からのコマンドによって、展開型の膜型ダストセンサー(30cm×30cm)を展開しノミナル観測ミッションを始動します(ダストセンサー展開時の外観は図1右の写真参照)。衛星サイズより大きい膜型ダストセンサーを用いることで、軌道上の数が少ない宇宙塵と微小スペースデブリ(宇宙ごみ)を十分量観測し、宇宙塵や微小スペースデブリの分布や特性などの詳細を明らかにしたいと考えています。また、観測と並行して、独自に開発した国産キューブサットバスシステムの軌道上実証を行います。高度なミッションを行うに足る性能を持つ本バスシステムの軌道実証により、深宇宙探査を含む挑戦的な将来ミッションに繋げたいと考えています。

図1 ASTERISC外観写真 左)展開前の衛星外観。前面のオレンジ色の膜が8cm×8cmの膜型ダストセンサー 右)30cm×30cmの膜型ダストセンサー(左方向に広げられたオレンジ色の膜)展開後の衛星外観。

<プロジェクト紹介>

千葉工業大学惑星探査研究センター(PERC)は、独自の惑星科学探査を高頻度で継続的に行うことを目指し、超小型衛星プロジェクトを2012年に立ち上げました。このプロジェクトの2号機となる衛星ASTERISC(アスタリスク)は、軌道上の宇宙塵と微小スペースデブリを観測することを目的とする3Uキューブサットです(図1)。キューブサットは10cm角のユニットからなる超小型の衛星です(3Uなので30cm×10cm×10cm)。ASTERISCは千葉工業大学惑星探査研究センターを実施責任機関として、惑星探査研究センターと東北大学が共同で開発しています。

ASTERISCは、JAXAの革新的衛星技術実証2号機の実証テーマとして採択され、イプシロンロケット5号機により打ち上げられることが決まりました。

ASTERISCは、独自に開発した世界初の方式の膜状の粒子観測装置(ダストセンサー)を搭載し、その膜にぶつかった宇宙塵と微小なスペースデブリ(宇宙ごみ)を観測することを目的としています。宇宙塵と微小スペースデブリはそれぞれ宇宙科学と宇宙環境問題の観点において重要な観測ターゲットです。

宇宙塵は太陽系史の様々なプロセスに関与していたと考えられています。太陽系形成初期に宇宙塵が集まり微惑星(惑星の種)が形成し、さらに合体成長することで惑星になりました。その後、微惑星の生き残りである彗星や小惑星から再び塵が放出され惑星間空間を漂い、場合によってはその宇宙塵が別の天体に行き着くこともあります。実際に、現在の地球に集積する宇宙物質の質量の大部分を占めるのが宇宙塵と考えられており、原始の地球においても降り注いだ宇宙塵由来の有機物が地球生命の起源に寄与した可能性が提唱されています。このような宇宙塵を地上から観測したくても、塵のサイズが小さく地球大気で効率的に減速されるため、流星のように発光しません。また、地上で宇宙塵を回収した例もありますが、大気突入時の溶融や地表での風化などで失われるため、飛来する宇宙塵のうち地上で回収されるのはごく一部のみであり、また回収できたとしても、いつどこから飛来してきたかを知ることは困難です。そのため、宇宙塵の分布や量などの特性を知るには、宇宙空間で直接その場で観測することが必要です。

他方、スペースデブリ(宇宙ゴミ)は、人類の宇宙活動における脅威として注目されています。大きいデブリが取りざたされがちですが、数百ミクロンサイズの微小デブリであっても超高速の宇宙速度で宇宙機に衝突すると大きな被害を及ぼすことが知られています。ところが、微小デブリは地上からは視えないため、その量は全くわかっていません。微小デブリの定量的な観測および評価は今後本格的に宇宙利用を進める上で喫緊の課題といえます。

宇宙塵と微小スペースデブリを軌道上で観測するための課題が、いずれの粒子も軌道上で直接観測するには数が少ないことでした。できるだけ大きな検出面積のダストセンサーを用いることが有効となりますが、従来の方式のセンサーを大型化することはコストの観点で容易ではありません。そこでPERCでは、容易に大面積化が可能な粒子観測装置として、世界初の方式である膜状のダストセンサーシステムを独自に開発しました。このシステムは、ポリイミド製の膜に圧電素子という小さいセンサーを接着し、粒子が膜に衝突することで発生する弾性波を電気信号として捉え、独自の信号処理を行うことによりリアルタイムで粒子を観測できます。粒子が膜に衝突しさえすれば検出できるので、膜の面積を大きくするだけで大面積のセンサーを容易に実現できる画期的な技術です。大面積の膜型ダストセンサーを用いて、宇宙塵の性質(分布・量・軌道など)を調べ、最終的には惑星の進化や生命の起源に宇宙塵がどうかかわったのかを明らかにしたいと考えています。

併せて、東北大と宇宙実績の豊富な国内メーカーとともに開発したキューブサットバスシステムの軌道上実証を行います。高度なミッションを行うに足る性能を持つ本バスシステムの軌道実証により、深宇宙探査を含む挑戦的な将来ミッションに繋げたいと考えています。

<衛星名の由来>

アスタリスクは、古代ギリシャ語で「小さい星」という意味を持ち、記号「*」の名前でもよく知られています。観測する宇宙塵が星のかけらであることと、超小型衛星を「小さい星」に例えて、今回ASTERISC(アスタリスク)と命名しました。

担当:石丸 亮 (イシマル リョウ) PERC超小型衛星プロジェクトマネージャ
千葉工業大学  惑星探査研究センター 上席研究員
TEL: 047-478-0320(代表)