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ツタンカーメンの鉄剣の製造方法と起源の特定に成功

千葉工業大学地球学研究センター及び惑星探査研究センター所長の松井孝典率いる研究チームが、エジプト考古学博物館において、ポータブル蛍光X線分析装置(※1)を用いてツタンカーメンの鉄剣の非破壊・非接触での化学分析を行った結果、鉄剣が低温鍛造により製造されたこと、エジプト国外から持ち込まれた可能性があることを明らかにしました。

この研究成果は、2月11日付の米国科学雑誌「Meteoritics and  Planetary Science」電子版に掲載されました。

論文情報

論文タイトル:The  manufacture  and  origin  of  the  Tutankhamen  meteoritic  iron  dagger

著者名:Takafumi Matsui〔1〕〔2〕, Ryota Moriwaki〔1〕, Eissa Zidan〔3〕, Tomoko Arai〔2〕*

著者所属:〔1〕 Institute for Geo-Cosmology, Chiba Institute of Technology, Japan

〔2〕 Planetary Exploration Research Center, Chiba Institute of Technology, Japan

〔3〕Conservation Center, Grand Egyptian Museum, Egypt

掲載リンク:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/maps.13787

(2月15日追記)『Nature』の「Research Highlights」に掲載されました。

製造方法の根拠

  • 1925年の発掘当時と比べ、錆や腐食がほとんど進んでいない。
  • 元素分析の結果、10-12 wt%のニッケルが含まれる。
  • 所々黒い斑点状に見られるものは、隕石の包有物である硫化鉄である。
  • ニッケルの二次元元素分布は、ウィドマンシュテッテン構造(※2)を示している。
  • ニッケル量、硫化鉄包有物及びウィドマンシュテッテン構造から、オクタヘドライトという 種類の隕石が鉄剣の原材料である。
  • ウィドマンシュテッテン構造及び硫化鉄包有物が保存されていることは、低温鍛造により製造 されたことを示す。

起源推定の根拠

  • 金の柄に少量含まれるカルシウムは、装飾物を接着する漆喰に由来すると考えられる。
  • エジプトでの漆喰の利用は、ツタンカーメン王の時代の1000年以上後から始まったとされる。
  • ヒッタイト帝国(現トルコ付近)の隣国であるミタンニからツタンカーメンの祖父である アメンホテプIII世に鉄剣が送られたと記す古文書(アマルナレター)が存在する。
  • 金の柄の組成は、ツタンカーメンの鉄剣がミタンニから持ち込まれた可能性を示唆する。

※本調査は在エジプト日本大使館、JICAのご協力をいただいた。

(※1)蛍光X線分析では、X線を分析対象試料に照射し、発生する蛍光X線の測定により試料中の元素濃度を決定する。本調査で用いたELIOは、装置を精密XYステージ上で移動させることで、二次元の元素分布分析が可能である。

(※2)ウィドマンシュテッテン構造とは、ニッケル濃度の低い鉱物であるカマサイトと、ニッケル濃度の高いテーナイトが交互に晶出することによって見られるオクタヘドライト特有の帯状模様である。

担当:千葉工業大学 惑星探査研究センター
主席研究員 荒井 朋子
TEL: 047-478-0320  FAX: 047-478-0372