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今年も小惑星Phaethonによる掩蔽現象観測に成功!

 昨年にひきつづき、今年も小惑星Phaethonによる掩蔽現象の観測に成功しました! 

掩蔽観測で知る小惑星フェートンの大きさ・形・軌道

 小惑星フェートン((3200) Phaethon; 仮名では「ファエトン」などとも表する)は、惑星探査研究センターが進めるDESTINY+計画における目標天体です。

 DESTINY+計画の観測衛星が小惑星フェートンを目指して宇宙を航行し、その間近から詳細な観測を行うためには、小惑星の大きさや形・太陽を周回する軌道を予め正確に知っておく必要があります。それらを明らかにするための重要な手法が、地上からの「掩蔽現象の観測」です。

 小惑星はときどき明るめの星の手前を横切ることがあります。このとき、わたしたちが地球からその遠くの星を見ると、ほんの一瞬だけ星が隠されます。このように手前の天体が奥の天体を隠すことを「掩蔽(えんぺい)」と呼びます。掩蔽が起きているときには地球上には小惑星と同じ大きさ・形の「影」が現れて高速で横切っていきます。そこで、影が通り過ぎる多数の地点に観測者を配置してそれぞれが星を観測し、星が隠された時間帯を精密に記録します。そして、最後にすべての観測結果とその観測位置の情報を付き合わせます。すると、小惑星が地上につくった影の大きさ・形・通った位置が浮かび上がります。それがすなわち、小惑星の大きさと形・軌道の直接的な情報になるのです。

これまでのフェートンによる掩蔽観測

 惑星探査研究センターが参加するフェートンによる掩蔽観測の試みは2019年に始まりました。初回は2019年8月。函館付近の一帯で予報された掩蔽現象に観測隊を送り込みました。しかし、残念ながら悪天候に阻まれて成功には至りませんでした。[小惑星フェートンの掩蔽観測@函館/2019-9-17]

 昨年2021年10月に予報された掩蔽現象では、アマチュア天文家とプロ天文研究者の連携で72名・36地点の大規模な観測チームを結成しました。その結果、首尾良く25もの地点での観測に成功し、見事にフェートンの形を捉えることができました。[小惑星Phaethonによる恒星の掩蔽観測に成功/2022-10]

今回2022年の掩蔽現象〜観測成功再び

 今年2022年10月21日23時32分に北海道北部(札幌市北部を東西に横切る帯状の地域)で再びフェートンが明るめの星を隠す掩蔽現象が起こることが予報されました。アンドロメダ座に位置する約11等級の明るさの星が最大で約0.2秒間隠されます。そこで、今回もアマ・プロの連携で観測者39名・19地点のチームを結成し観測に臨むこととしました(図2)。

 さて、昨年すでに掩蔽観測に成功しているのに、なぜ再び観測を行う必要があるのでしょうか?それはつぎの理由によります。
(1) 小惑星は太陽を周回するにつれて、また自身の自転によって、我々に見える向きが時々刻々と変化します。異なる時期の掩蔽観測からは異なる小惑星の断面を捉えることができます。それらをもとに、立体的形状を精密に決めることができます。(大きさ・形の測定)
(2) 小惑星の軌道が何らかの原因で変化することがあります。軌道に変化が起きていないか、起きているとすればどの程度かを掩蔽観測で確認することができます。(軌道の確認)
今回の観測では、これらの2点を重要な目標に掲げました。

図1: 2022年10月21日の掩蔽観測予報帯(実線)と観測者配置。Google Mapに早水勉氏(佐賀市星空学習館)が観測地を付記したもの。

 今回の掩蔽帯(掩蔽観測が可能な地域)は北海道を広く横切る帯状の地域。ほとんどの観測者は他地域に拠点を持つため、機材を持ち込んでの遠征が主となりました。天候に恵まれれば札幌に近い地域で充分ですが、天候が悪い場合に備えて山野を越えた遠方にも観測地・代替観測候補地を用意する観測者は少なくありませんでした。天候次第では、不慣れな土地で夜間の晴れ間を求めて長距離移動する必要に迫られる、困難を伴う試みです。

 結果として、多くの観測者が配置された札幌地域が好天に恵まれたこともあり、14地点での観測に成功しました。9地点で掩蔽現象による減光を検出し、5地点で通過(掩蔽が起こらなかったことが確実であること)が確認されました。(残り5地点はトラブル・天候等による観測なし)

 今はまさに観測データの精査を進めているところです。そのさなかの暫定的な速報ではありますが、昨年と同様にはっきりとした「フェートンの形」が浮かび上がりつつあります。(図2)。

 みかけの形が昨年の掩蔽観測時と異なることや、観測者の配置に対して小惑星の影が若干南に寄っていることなど、現時点でも興味深い特徴がいくつも見られます。しかし、詳しい評価は観測データの精査が終わり最終結果が確定した上で改めて行う必要があります。
 ここでは、まずは速報として、今回も多地点で掩蔽観測に成功しフェートンの影をしっかり捉えることができたこと、そして、当初掲げた目標(大きさ・形状の測定と軌道の確認)を間違いなく達成できそうであることをお知らせいたします。

図2: 今回の掩蔽観測の暫定的な解析速報。実線とそれが途切れている部分が各観測者が捉えたフェートンの光度変化。実線=恒星が見えていた時間帯、線が途切れている部分=恒星が隠れていた時間帯に対応。中心の立体図は、これまでの観測を元に得られているフェートンの立体形状モデルの図をおおまかに今回の観測結果にあてはめてみたもの(現時点では、定量的な強い根拠に基づいたものではないことに注意)。解析・吉田二美 (産業医科大/千葉工大惑星探査研究センター)。

観測現場から

 惑星探査研究センターからは、秋田谷(上席研究員)・吉田(産業医科大助教/千葉工大惑星探査研究センター非常勤研究員)がチームに加わり観測に参加しました。

 秋田谷は、観測地点一つを分担し、石狩川右岸河口近く当別町の公園駐車場に単身乗り込みました。北海道入りする2週間以上前から選んでおいた候補地の一つです。観測地はインターネット上の地図情報や航空写真、トイレの有無などの設備情報を集めて入念に選定しました。また、観測の前日にも現地を訪れて実地確認も行いました。出発前には、実際に車で望遠鏡を野外に運んで組み立てた上で本番観測と同じ星の画像取得を行うなど、予行練習にも力を入れました。そして当日夜20時頃、レンタカーに機材一式を積み込んで現地に赴いたのです。

 荷物の開梱から望遠鏡の組み立て・水平出し・極軸合わせ、高速デジカメの起動、GPS時刻信号の取得、明るい星の試験撮像、などなど・・・・・・、滑り出しは順調でした。昼間は雲で覆われていた空も夜が更けるにつれて奇跡的に晴れ始めます。「さすが北海道、北極星が高い!」などと余裕の思いも巡らせつつ観測の成功を予期しました。

図3: 当別町での観測準備の様子

 しかし、好事魔多し。明るい天体はデジカメに入れられるのですが、掩蔽が起こる肝心の暗い星の方にしっかり望遠鏡が向きません。次第に迫る掩蔽現象時間帯。そう、掩蔽現象が起こる時間帯は23時32分台のごく一瞬とほぼ正確に予報されているのです。いくら事前にうまくいっても、その瞬間だけ望遠鏡がそっぽを向いたり雲に覆われるだけで全てが無為となってしまうのです。しかし、やはり目標の天体が入らない。迫る時限。募る焦り。ようやく不具合の原因を突き止める。望遠鏡の再調整。しかし今度はデジカメの電源が落ちてしまう。原因不明。制御用のパソコンも再起動してさらに時間が経過。混乱。・・・。結局、すべての準備が整う前に予報時間を迎えてしまいました。残念ながら、この地点での観測は「不成立(機器トラブルによる失敗)」となってしまいました。

 それでも、今回の観測チームの強みはこのような機器トラブルや悪天候のリスクを回避できる層の厚い布陣。この地点の観測は失敗しても、少し観測地をずらした皆さんが成功し、大勢への影響はありませんでした。むしろほとんどの皆さんが好天と良い準備に恵まれまました。観測直後から、「減光」(掩蔽で星が隠される)や確実な「通過」(ここでは掩蔽が起こらなかった)を確認したとの速報が続きます。惑星探査研究センターからのもう一人の参加者・吉田が赴いた地点でも、小惑星の影が通ったことを示す「減光」をしっかりと確認しました。

 最終的にチーム全員の観測結果を付き合わせたところ、小惑星の形がはっきりと浮かび上がり、惜しくも観測がかなわなかった地点をカバーして余りある大成功となったのです。

 秋田谷自身は不首尾に心底落ち込んで機材片付け・撤収をすることになり、苦い経験となりました。しかし、チームの皆さんの熱意とそれが導いた全体の成功に心励まされ、次の掩蔽観測でこそは失敗を繰り返すまいと心に期して、千葉への帰途に就いたのでありました。

(文責: 秋田谷)