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フライバイ模擬撮影実験

 PERCでは、2020年代に打ち上げが予定されている深宇宙探査技術実証ミッションの探査機DESTINY+(※1)に搭載するカメラの開発に向けた検討を進めています。DESTINY+探査機は、ふたご座流星群の母天体として知られているフェートン(またはファエトン)という小天体のフライバイ探査(※2)を行います。フェートンの近傍を相対速度秒速33 キロメートルという高速度で通過しながら、カメラでフェートンの観測を行います。フライバイ探査で観測できる時間は一瞬ですが、その間にカメラでフェートンを追尾しながら、科学的により価値の高い画像を取得するために、自動天体追尾装置を備えたカメラを検討しています。

 フライバイの際に撮影するフェートンの画像を用いて、フェートンの三次元形状モデルを作成することになっています。「はやぶさ2」などの探査においても探査画像から形状モデルが作成されています(※3)。しかし、フライバイ探査では「はやぶさ2」のように天体全体の詳細な画像を取得することはできないので、通過する際に撮影される限られた画像から、ちゃんとした形状モデルを作成できるのかはよくわかりません。そこで、実際にカメラと天体模型を用いてフライバイを模擬した撮影を行い、どのような条件で撮影を行えばより良い形状モデルを作成することができるかを調べる実験を行いました。

 実際のフライバイでは、直径約5キロメートルのフェートンを、最接近距離500キロメートルで通過しながら撮影を行います。実験ではそれをスケールダウンして、直径約20センチメートルの小惑星模型の横に、最接近距離が20メートルとなるようにレールを敷き、その上でカメラを移動させながら小惑星模型の撮影を行いました。実験は、千葉工業大学内で最も大きな部屋を使って行いました。

写真1 実験準備の様子。横幅が20m以上ある部屋で実験を行いました。

小天体模型には、小惑星探査機「はやぶさ」が探査したイトカワと「はやぶさ2」が探査したリュウグウの模型を用いました。模型は3Dプリンタで作製したのですが、表面がテカテカとしていたので、模擬炭素質隕石粉末をまぶして、本物の小惑星に近い質感にしました。(フェートンの表面は、炭素質隕石と呼ばれる種類の隕石に似ていると考えられています。)

写真2 イトカワの模型。3Dプリンタで造形して、模擬炭素質隕石粉末をまぶしてあります。

そして、太陽光を模擬した疑似平行光を、カメラの動きに対して実際のフェートン探査の場合と同じ角度から照射して、撮影を行いました。

写真3 撮影実験で撮影した、イトカワ(右)とリュウグウ(左)の模型の画像の例。

これらはフライバイ模擬撮影実験で取得した画像の例です。それなりに宇宙空間に浮かぶ本物の小惑星のように見えませんか?

 現在、このようにして撮影した一連の画像を用いて三次元形状モデルの作成を行い、結果の解析を行っているところです。

図1 イトカワ模型の取得画像から作成した三次元形状モデルの例。

フライバイ探査画像から得られる形状モデルは、全球ではなく、フライバイの間に太陽光に照らされている部分のみのものになりますが、それなりに良い精度で形状が求められていることがわかると思います。今後は、撮影条件と形状モデルの精度の関係を詳しく調べていきます。 今回の実験の結果を、実際のフェートンのフライバイ観測における撮影計画に反映する予定です。

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※1 DESTINY+(デスティニー・プラス)は、Demonstration and Experiment of Space Technology for INterplanetary voYage, Phaethon fLy-by and dUst Scienceの略。DESTINY+ミッションの紹介ページ http://www.perc.it-chiba.ac.jp/projects/destiny-plus

※2 天体の近傍を通過する際に天体の観測を行う探査手法。よって、天体を詳細に観測可能な時間は、通過する際の一瞬に限られる。

※3 JAXAにより公開されている小惑星リュウグウの形状モデルの紹介ページ http://www.hayabusa2.jaxa.jp/topics/20180711bje/index.html

(石橋 高)