Vision

千葉工業大学惑星探査研究センター(PERC)は、
何を目指し、どのように研究を進めているのでしょうか?

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人類は有史以来、新しい「知」を切り拓いてきました。半世紀前、アポロ計画による月探査によって始まった惑星科学という学問は、地球、そして太陽系の惑星についての科学的な理解を大きく進展させました。
そして、21世紀に入ったいま、惑星科学をベースに多様な知の領域を横断するかたちで、「私たち生命はどこから来たのか?」という究極の問いの探求が始まっています。
宇宙における生命の起源や進化の過程を究明する「アストロバイオロジー」という学問です。
PERCは、このアストロバイオロジーを大きな研究テーマとしてかかげ、様々なプロジェクトに取り組んでいます。

Image: The Earth Science and Remote Sensing Unit, NASA Johnson Space Center

PERCは、JAXA(日本)をはじめNASA(米国)やESA(欧州)など世界の宇宙機関が推進する惑星・小天体探査ミッションに参加しています。水星、火星、木星、彗星などの探査機に搭載される観測装置の開発に関わり、特に小惑星探査機「はやぶさ2」では、ほぼすべての科学観測機器の開発やデータの解析に関わっています。また、探査する予定の天体をあらかじめ望遠鏡で調査し、探査機や観測装置の設計に役立てる地上観測プロジェクトも進めています。
PERCでは、それらの探査で得られたデータを解析し、惑星や地球生命の起源と進化、宇宙での生命の可能性を探っていきます。

Mercury: NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie Institution of Washington; Mars: NASA/JPL-Caltech/USGS; Jupiter: NASA/JPL/Space Science Institute; Comet: ESA/Rosetta/MPS for OSIRIS Team MPS/UPD/LAM/IAA/SSO/INTA/UPM/DASP/IDA; Asteroid: NASA/JPL

PERCは独自の探査プロジェクトにも力を入れています。その探査領域として特に注目しているのは、宇宙と地球の境界領域。高度数百kmから成層圏までの空間です。
地球にはいまも、彗星や小惑星から放出された宇宙塵(うちゅうじん)と呼ばれる微粒子が大量に降り注いでいます。彗星や小惑星に含まれる有機物が生命の起源において重要な役割を果たしたと考える科学者は多く、地球周辺の宇宙塵の様子や組成を調べることは宇宙と生命の関わりを探るうえで重要です。PERCでは、国際宇宙ステーションからのハイビジョンによる流星観測、小型流星観測衛星の開発・運用、気球や小型観測ロケットによる宇宙塵採取などのプロジェクトを実施しています。
さらに、宇宙から地球へ生命自体が入ってくることがあるのか、逆に地球から宇宙へ出て行くことがあり得るのかどうかも科学的に調査しています。独自開発の採集装置を成層圏まで気球で飛ばし、微生物やウイルスを捕獲するプロジェクトです。
PERCは、惑星科学探査を高頻度で継続的に行うことを目指して、これら多くの独自プロジェクトに挑戦しています。

Image: The Earth Science and Remote Sensing Unit, NASA Johnson Space Center

探査機や気球、ロケットを使った「その場」でできる観測だけでなく、行けない場所や簡単には見られない現象の研究も行っています。
PERCで実施されている高速度衝突実験は、生命が現れた初期の地球で起きていた天体衝突の役割を実証的に調べることができます。衝突による蒸発で生み出される化合物と生命の起源との関わりはアストロバイオロジーの最先端の研究テーマです。
火星環境模擬チャンバーは、火星大気と同じ温度・圧力・化学組成を再現できる日本で唯一の実験装置です。生命が存在する可能性がある火星環境を実験室内に作り出せる装置は、生物学的な研究だけでなく、火星に着陸する探査機に搭載される観測機器の試験にも利用できます。
宇宙と地球を生命が行き来する可能性を、生物学的な耐性面から検証する実験も行われています。


PERCは、発足当時から惑星地質学の研究を続けています。インドデカン高原のロナー衝突クレーターの地質調査、アゼルバイジャンや新潟県などの泥火山の地質サンプリング分析調査、火星の大気中のメタンと地質との関係などの研究で成果を上げています。
インドやスリランカで観測された不思議な「赤い雨」の調査研究も行っています。隕石の落下が同時期に起きていることから、赤い雨が宇宙に起源をもつ可能性が浮上し、大きな注目を集めています。PERCでは、赤い雨に含まれていた微生物細胞の形態や分子系統学的な解析を進めています。

Image: The Earth Science and Remote Sensing Unit, NASA Johnson Space Center

PERCは、地球の枠を超え、
宇宙スケールで「生命」のなぞに挑みます。