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【連載】MMX用ダストセンサー開発中! 第1回「お試し実験」

JAXAの宇宙探査計画で、火星衛星探査計画(MMX)という惑星探査ミッションがあります。火星衛星、つまりフォボスとデイモスの起源や火星圏の進化の過程を明らかにすることを目的とした火星探査計画ですが、PERCはこの計画でも搭載機器の開発に関わっています。その一つが大面積ダストセンサーで、火星のダストリングを観測しようとしています。

「火星にリングなんてあったっけ?」

はい、ありません、というよりは、まだ見つかっていません。実は、1970年代にアメリカのコーネル大学の大学院生が博士論文研究で火星のダストリングの存在について最初に予想しました。それ以来、多くの理論研究者がさらに具体的なリングの予想を行い、実験研究者は様々な方法で観測を試みましたが、今まで見つかっていません。

火星にリングがあるのかないのか決着をつけるべく、MMXに搭載するためのダストセンサーを開発しているところで、現在、基本設計が終わってさらに詳細な設計を行おうとしているところです。

理論的には予想されていても、どのくらいのダストが存在しているのかわかりませんので、とにかく大きな面積のセンサーで測定する必要があります。ダスト観測装置には様々なタイプのものがありますが、大きな面積を実現するには重量が大きくなってしまって探査機に搭載できなくなってしまうので、とにかく構造が単純で、かつ確実にダストが衝突するときの衝撃を検出できるようなセンサーが必要です。

ところで、宇宙探査機は必ずと言っていいほどMLI(Multi-Layer Insulator)という断熱材でくるまれています。図1がMMXの概念図で、金色に光っているのがMLIで、図2は実際のMLIの見本の写真です。

図1.MMX探査機(JAXAウェブサイトより)

図2.MLIの写真。一枚一枚はペラペラのフィルムが多層になっている断熱材。

MLIは大体の場合がポリイミド(プラスチックの一種)というフィルムで作られていたりするのですが、ダストが衝突した時の衝撃を検出すればダストセンサーになるのでは、ということを思いつきました。MLIはそもそも宇宙探査機に取り付けられるものなので、あとは衝撃センサーを貼り付ければそれだけで探査機の表面全体をダストセンサーにできる、最初はそんな思い付きでした。大きなものが衝突すれば信号も大きなものが得られます。火星リングで予想されているダストのサイズは30µm(1μmは1mの百万分の1)、本当にそのように小さいダストの衝突が検出できるかどうか分かりません。

そこで、小さいダストを模擬する微粒子を衝突させる実験をやってみました。下の写真は、1µm(1mの百万分の1)のサイズの微粒子を電気の力で加速する装置を使ってとりあえずやってみよう、ということで「お試し」実験をやってみました。図3は実際に使った静電加速器です。大阪大学の佐々木研究室にありますが、日本で稼働している唯一のダスト加速用静電加速器です。図4は、黄色いポリイミドフィルムに衝撃センサーとして圧電素子(フィルムに貼られている丸いもの、2つ)を接着剤で貼り付けただけのものです。

図3.静電加速器。微粒子を加速することができる。

図5.実験用セットアップ。センサーを収めるチャンバーが無かったので、静電加速器の配管に直接組み込めるようにブランクの真空フランジにスタッドを立ててターゲットとしてのセンサーを取り付けている。

センサーの部分は千葉工大の工作センサーに頼んで加工してもらいました。PZT素子から出ている同軸ケーブルを、プレアンプに入れてその出力の信号波形をオシロスコープで読みとったのが、図6に示されています。1µmのダストが秒速500mくらいの速度でポリイミドフィルムに衝突した時に発生した微小な振動を電気信号に変える圧電素子を使って読みだした信号(青色)です。このようなタイプのダストセンサーはこれまでに使われた実績はなく、実用化するには様々な課題をクリアする必要がありましたが、非常に軽い質量で大面積のダストセンサーの開発に向けた第一歩というべき実験でした。

図6.オシロスコープで読んだセンサーからの信号(青色)と加速器からのダストの信号(黄色)

これは5年前のことで、この後、いろいろな実験や試験を経て火星リング発見に向けたセンサーの開発をしてきました。この開発について、これから複数回に分けてご報告していこうと思います。