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ニュージーランドの深海サンゴの新種(Pachyprimnoa asakoae Cairns, 2016)に名前がつきました

来年のNOAA(アメリカ海洋大気庁)の航海は2017年1月からの予定になります、松本亜沙子です。今年の成果の一部は12月AGU(American Geophysical Union)の秋の学会で発表される予定です。
2016年9月にアメリカのボストンで6th Deep Sea Coral Symposiumがあり、そこでオランダおよびアメリカの共同研究者と深海の八放サンゴの発表をしてきました。それに先立ってワシントンDCのスミソニアン自然史博物館に標本調査に行きました。アメリカのホワイトハウスの徒歩すぐ近くにスミソニアン航空宇宙博物館、スミソニアン国立民族学博物館などの博物館群がありますが、自然史博物館もその一つです。約100年前にアメリカの米国水産局魚類委員会の調査船アルバトロス号が日本近海までやってきて漁業資源調査などを行っているのですが、そのとき日本から採集された八放サンゴの調査が松本の目的でした。その際に、ちょっとしたパーティがあり、スミソニアンのサンゴ研究者であり標本の責任者でもあるケアンズ博士からサプライズのプレゼントがありました。
ニュージーランド国立海洋大気局(NIWA)から出版されたケアンズ博士の新著「ニュージーランドの海洋生物相 オオキンヤギ Part.2」です。

Front cover image by Crispin Middleton, NIWA. Cairns, Stephen D. 2016. The Marine Fauna of New Zealand: Primnoid octocorals (Anthozoa: Alcyonacea) – Part 2. Primnoella, Callozostron, Metafannyella, Fanellia and other genera. Wellington, New Zealand: National Institute of Water and Atmospheric Research (NIWA). (NIWA Biodiversity Memoir; 129) 131 pages.
NIWAのHPでは以下のページで新著刊行の紹介がされています。
New NIWA Biodiversity Memoir on the diverse primnoid corals of New Zealand
本の内容は、ケアンズ博士が記載したニュージーランドの深海サンゴ(八放サンゴ)についてですが、この本の最初に献本メッセージとともに「See p.106!」の文字が。
該当ページを開くと、新属・新種Pachyprimnoa asakoae gen. et. sp.nov.として私の名前がつけられた深海サンゴでした!

Image from Figure 63A, pg. 106 in NIWA Biodiversity Memoir 129 (Cairns 2016)

この名前の付いたサンゴは、ニュージーランドの北の水深約300-500mで発見された新種の八放サンゴです(マップ白丸)。今回の新種は新属でもあるので、いまのところこの属に含まれているサンゴはこのP. asakoaeしか存在しません。
新しい生物の種類を初めて発見し、論文記載をするときに名前をつけることが出来ますが、このとき論文を書く本人は基本的には自分の名前を種名につけることは出来ません。また、学名はラテン語でつける決まりがあり、ラテン語には男性女性の区別があるため、名前をつけるときにはその人が女性の場合には-ae、男性の場合は-iが語尾につき、それによって種名からその人物が男性なのか女性なのか判別が出来ます。
今回のP. asakoaeは私が女性なので語尾が女性形の-aeになっていますが、男性形の種名の例としては、長崎のオランダの出島にいたシーボルト(Siebold)が日本から取って行った沢山の生物種があります。日本では古くから名前がつけられて知られていた一般的な生物ばかりですが、西欧科学の様式で記載されていなかったため、彼が日本から持って帰った生物は彼に献名されて、日本産の桜草のPurimula sieboldii E. Morren、トンボのオニヤンマAnotogaster sieboldii Sélys,1854、鯛の仲間のヒメダイPristipomoides sieboldii (Bleeker,1857)などにシーボルトの名前を残しています。シーボルトは男性なので種名の語尾がすべて男性形の-iになっているのが分かるかと思います。
(松本亜沙子)