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DESTINY+搭載カメラMCAP(EM)のコリメータ試験(その2)
以前のブログでスタミナラーメンとスタミナ丼のW発注をした岡本です.
以前は,DESTINY+探査機に搭載されるマルチバンドカメラMCAP(エムキャップ,Multiband Camera for Phaethon)のエンジニアリングモデル(EM)(※1)の光学校正試験のうち「積分球試験」の様子をご紹介しました.今回は, 「コリメータ試験」の様子をお伝えします. (石橋さんより素晴らしいパスを受けながら私の報告が大変遅れてしまったこと, 申し訳ありません. )
コリメータ試験は, 明星電気株式会社で行い, 主に画像のひずみ(以降「歪曲」と呼ぶ)を修正するためのデータと「Broad PSF」と呼ばれるデータを取得するために行いました.
歪曲とはレンズを通して写した場合に, モノが曲がって見えてしまうことです.例えば, 直線をカメラに写したときに, レンズ等の影響を受けて実際には曲線となって写ってしまうことだと思ってください.このような歪んだ画像は, 画像処理の技術を用いて実物と同じように見えるように修正できます.
一方, Point Spread Function(PSF)とは, カメラや望遠鏡などで写真を撮るときに, 点となる光(例えば非常に遠くの星)が画像上でどのように広がるかを表すものです.通常,遠くの星を見ると,その光が完璧な点ではなく,周りに少し広がって見えることがあります.この広がり具合を表すものがPSFです.「Broad PSF (Point Spread Function)」 とはこれとは異なり, 点よりも大きなある程度の大きさを持つ光を撮像すると,その像の周囲の広範囲にぼんやりと光が広がって見える現象のことです.この現象の存在が,過去の小天体探査機に搭載されたカメラで報告されています(※2).これを補正してより鮮明な画像に修正するには, 適切なBroad PSFのデータを取得する必要がありますがMCAPではこの補正方法が確立されていません.MCAPのEMではこのデータ取得方法について試行錯誤しました.
[歪曲の測定]
歪曲の測定には, オートコリメータという装置を使いました(図1.1).このオートコリメータからは十字の線が投影されます(図1.2).オートコリメータに対するMCAPの姿勢(つまり光がMCAPへ入射する角度)を変えることで,MCAPの視野のさまざまな場所に十字線を写すことができます.MCAPに対する光の入射角度と十字線の写る位置の関係を調べることで,歪曲を補正することができます.
[Broad PSFの測定]
Broad PSFの測定には,望遠鏡を用いました(図2.1).通常, 望遠鏡は鏡筒の先から入る光を観測するものです.Broad PSFの測定ではこれとは逆に, 望遠鏡の焦点位置にドーナツ型のアルミ板を挿入し,後ろから光を入れることで円型の光の像をMCAPに投影することができます(図2.2). 今回の試験では,このような像を投影できる試験セットアップが組めることを確認できました.一方で撮られた画像には,望遠鏡の内壁やドーナツ型のアルミ板を支えるホルダなどで散乱されたと思われる光も合わせて確認されました.正確なBroad PSFを評価するにはこれらの不要な光を適切に除去する必要があります.その後, この不要な光を除去するため, セットアップの改良・工夫を重ね, 綺麗な円型像を取得することができるようになりました.フライトモデル(FM)の試験にむけて適切なデータを取得するための準備ができたと考えております.
MCAP(EM)光学校正試験の第3弾として, MCAPで実際に隕石を撮像した「隕石撮像試験」についてお伝えする予定です.
(文: 岡本 尚也)
※1.エンジニアリングモデル(EM)は, 実際に宇宙に打ち上げるフライトモデル(FM)を制作する前に, 基本設計に基づき制作するモデル. なおMCAPは, 明星電気株式会社および株式会社コシナのご協力のもと, 開発が行われています.