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DESTINY+搭載カメラ MCAP(EM)の光学校正試験 (その1)

 現在、PERCが中心となり、JAXAの深宇宙探査技術実証ミッションの探査機DESTINY+(※1)に搭載するカメラの開発を行っています。DESTINY+探査機は、ふたご座流星群の母天体として知られているフェートン(またはファエトン)という小天体のフライバイ探査(※2)を行います。フェートンの近傍を相対速度秒速36 キロメートルという高速度で通過しながら、カメラでフェートンの観測を行います。DESTINY+探査機には2台のカメラが搭載されますが、そのうちの1台であるマルチバンドカメラMCAP(エムキャップ,Multiband Camera for Phaethon)のエンジニアリングモデル(EM)(※3)が完成し、先日、その光学校正試験を行いました。

 MCAPは、可視から近赤外にかけての4つ波長(425、550、700、850 nm)でフェートンを撮像するカメラです。その4波長の測定から得られるスペクトルの形状、つまりフェートンの「色」から、フェートンの表層の場所ごとの物質についての情報が得られます。このようにMCAPは4つの波長で観測しますが、付いている光学系(レンズ)は2つです。実は、1つの光学系が内部でプリズムにより2つに分岐されていて、1つの光学系で2つの波長の光を観測できるようになっています。

MCAP(EM)

 カメラ撮像で得られる生画像は、単なる数値の集まりです。それを、理学的に意味のある情報に焼き直すために必要なのが光学校正です。(1)観測される信号量の大きさに関する校正(ラジオメトリック校正)や、(2)視野内の位置に関する校正(ジオメトリック校正)などを行う必要があります。それらの校正に必要なデータを取得するために、「積分球試験」と「コリメータ試験」を行いました。

 今回は、積分球試験の様子をお伝えします。上記の(1)に関するデータを取得するための試験です。(コリメータ試験については次回のブログ記事でお伝えする予定です。)

 JAXAの筑波宇宙センターにある硫酸バリウム積分球を使用しました。この積分球は、開口部周辺の内側にランプが設置されていて、その光が積分球内部で何回も反射することで開口部の輝度が均一になります。また、開口部の分光放射輝度値が保証されています。つまり、積分球の開口部は、明るさが均一で、その値も正確にわかっている平面と見なすことができます。それをカメラで撮影することで、得られる画像の「数値(単なるカウント値)」と理学的に意味のある「明るさ(放射輝度値)」の対応関係を知ることができます。このようなデータを準備しておけば、フェートンを撮影した時に、そのカウント値からフェートンの明るさ(放射輝度)を求めることができます。同時に、カメラの画素ごとの感度のむら(不均一性)を補正することにもなります。

 積分球の開口部にMCAPを正対させて設置して、1波長ごとに積分球の放射輝度を適切な値に設定して測定を行いました。まだEMでの試験なので、MCAPの問題がいくつか見つかりましましたが、それらをフライトモデル(FM)の設計に反映します。また、積分球試験の手順の確認という意味においては、FMでの試験に向けて大変良い準備ができました。

積分球試験の様子

 無事に試験を終えた後に、茨城名物のスタミナラーメンを食べました。夏なので、冷たい麺の上に熱々の餡をかけた「スタミナ冷やし」をチョイス。おいしかったです。光学校正試験の責任者の岡本研究員は、よほどおなかが空いていたのか、スタミナ丼とのW発注でした。

W発注の岡本研究員(良い笑顔)

 次回は、岡本研究員によるコリメータ試験の様子の紹介の予定です。乞うご期待!

(石橋 高)

※1.DESTINY+(デスティニー・プラス)は、Demonstration and Experiment of Space Technology for INterplanetary voYage, Phaethon fLy-by and dUst Scienceの略。DESTINY+ミッションの紹介ページ http://www.perc.it-chiba.ac.jp/projects/destiny-plus

※2.天体の近傍を通過する際に天体の観測を行う探査手法。よって、天体を詳細に観測可能な時間は、通過する際の一瞬に限られる。

※3.エンジニアリングモデル(EM)は、実際に宇宙に打ち上げるフライトモデル(FM)を制作する前に、基本設計に基づき制作するモデル。FMとほぼ同等の仕様を持つ。EMを用いた検証試験の結果を詳細設計に反映して、FMが制作される。

MCAPは、明星電気株式会社および株式会社コシナのご協力のもと、開発が行われています。