概要
惑星探査を行うには探査対象を前もってよく調べておくことが重要です。対象天体の軌道、大きさ、反射率、自転、大まかな表面状態や組成は探査機や観測装置の設計に重要な基礎情報です。そのような基本情報を得るために、時には自分たちの望遠鏡で、時には大望遠鏡の観測時間を獲得して、また時には国内外の研究者に協力を呼びかけて、私たちが目指す探査に必要な情報を獲得していくのがこのプロジェクトの目的です。
探査が決まった特定の天体の詳細観測を行うことはもちろん重要ですが、それだけでなく、将来の惑星探査計画策定のために興味深い天体を探すことも本プロジェクトは目指していますので、望遠鏡を使って太陽系の未開拓の場所、すなわち太陽系外縁部や、暗くて、小さくてまだよくわかっていない小さい太陽系小天体の観測を通して、将来の惑星探査対象の枠を広げていきます。
また惑星があるのは太陽系ばかりではありません。最近続々と見つかっている系外惑星系の中には太陽系と似たものもたくさんあります。私たちは、様々な惑星系の観測を通して惑星形成・進化の全体像とその中での太陽系の位置付けを明らかにすることも目指しています。これは望遠鏡を使った惑星探査に他なりません。
研究内容
探査天体の詳細観測
2017年からDESTINY+のフライバイターゲットである小惑星(3200)Phaethonの詳細観測を行なっています。Phaethonはふたご座流星群の母天体であることや太陽に非常に接近する珍しい軌道を持つことなどから、すでに多くの研究がなされていましたが、Phaethonが2017年12月に地球に非常に接近して非常に明るくなるのを期に私たちは再度世界中の研究者に観測を呼びかけ、多くの新しい観測結果が得られました。翌年の2018年にはPhaethonからの分裂天体と考えられている2005UDの観測キャンペーンを行い、惑星探査研究センターのメンバーもかわべ天文公園の望遠鏡で観測を行いました。また様々な望遠鏡に観測プロポーザルを提出しまし、DESTINY+探査計画策定に大きな貢献をしています。
2019年度は恒星食の観測に挑戦しています。探査計画を検討する上で対象天体の大きさや形状の決定は非常に重要です。しかしながら、地上観測で小惑星の大きさや形状を正確に求めることは実は簡単なことではありません。小惑星の3次元形状モデル作成には小惑星を可視光で様々な角度から観測しなければなりませんが、それには小惑星と地球と太陽がちょうどいい位置関係になる時を何年も待たなければなりません。さらに小惑星からの熱放射の情報が必要で、それらの情報を合わせたモデルを作ります。しかしこの方法にはいくつかの仮定が介在するので、あまり精度はよくありません。小惑星の大きさと形状を決めるにはもっと直接的な方法があります。それは小惑星が後ろにある恒星を隠す掩蔽(日食と同様の現象です)現象を利用することです。恒星が隠れた時刻とその継続時間を地上の複数個所で測定し、小惑星の大きさと形を浮き彫りにします。掩蔽現象は地球上の限られた場所でしか見えませんが、これまではその場所の予報精度が悪く、広い範囲に観測地点を散らばらせての観測が必要でした。しかし最近の恒星の位置を詳しく観測するガイア天文衛星の活躍で、恒星の位置精度が格段に上がったこととで、この観測方法も現実的な人員と機材での可能な見込みが立ってきました。
実際のところは、掩蔽観測は、観測地点が多ければ多いほど精度が良くなりますので、なるべく大規模なチームを編成するのが望ましいです。惑星探査研究センターでは、国内外での人的ネットワークを活用し、プロ・アマ合同の観測チームを編成して2019年夏から秋にかけてPhaethonによる恒星食の観測キャンペーンを展開しています。掩蔽観測はこれから小惑星の大きさや形状を知る重要なツールになるので、より強固な観測ネットワークを構築し目指しています。
太陽系小天体サーベイ
21世紀に於ける惑星科学および天文学の最大の課題の一つは「生命の起源と進化の探究」です。これからの惑星探査は宇宙における生命探しに多く舵を切っていくことでしょう。まずその一歩として太陽系内での生命探査が始まるでしょう。実際メインベルトを超えて、氷と有機物の世界(木星トロヤ群やエウロパやエンセラダスなど)への探査がいくつも計画されています。
メインベルト以遠の太陽系小天体サーベイは実はまだ完璧ではありません。太陽系小天体は小さくて暗いので、大型望遠鏡によるサーベイが必要になるからです。とくに氷や有機物を大いに含んでいる彗星の貯蔵庫である太陽系外縁部の調査は今始まったばかりです。太陽系形成初期に惑星の材料となった微惑星がどこまで広がっていて、どれだけの量が存在するのか?そこに含まれる水や有機物の量はいかほどか?それらは内部惑星領域にまで侵入し、地球の生命と果たして関係があるのか?太陽系小天体サーベイの研究はこれらのような疑問に答えを与えてくれます。一つの惑星や衛星に集中した生命探査に対して、太陽系小天体サーベイはより大きな視点・領域に対する生命発生・維持環境の条件を調べることができ、互いに相補的な役割を果たします。
私たちはこれまでに各太陽系小天体グループのサイズ分布の比較を行い、メインベルト小惑星とヒルダ/木星トロヤ群のサイズ分布が全く異なることを見出しました。さらに、ヒルダ/木星トロヤ群のサイズ分布が太陽系外縁天体のサイズ分布に似ていることから、いくつかの惑星形成モデルが示唆するように、現在のヒルダ/木星トロヤ群小惑星は太陽系初期に外縁部から落ちてきた天体群ではないかと推定しました。この分析結果は国際学術誌に発表しています。このように太陽系小天体サーベイで得られる結果は太陽系の礫にの推定にも使うことができます。
また太陽系小天体サーベイで発見される新たな天体の中には太陽系の形成・進化を研究する上で要となる天体が見つかるかもしれません(例えば第9惑星など)。未開の領域の未知なる天体探しに乗り出す、太陽系外縁部の大航海時代の始まりです。
太陽系外惑星
20世紀終盤に始まった太陽系外惑星系の研究により、太陽以外の恒星に惑星が普遍的に存在することがわかってきています(これらの惑星は太陽系外惑星または系外惑星と呼ばれています)。見つかっている系外惑星の多くは、天体の大きさや軌道などの基本的な性質であっても太陽系の惑星とは似ても似つかず、我々の太陽系をモデルに構築された惑星形成モデルの再考が必要となっています。
また系外惑星系の中には、いわゆるハビタブルゾーン(生命居住可能領域)内に地球型惑星を含む系も発見されています。このことは、宇宙には地球と同様に居住可能な環境が普遍的に存在し、そこに生命が誕生・存続している可能性が大いにあるということを示唆します。つまり、 人類がこれまで蓄積してきた天文学、惑星科学、生物学の知識を統合し、宇宙に生命を探す時代が既に始まっているのです。現在はその第一歩として、大型望遠鏡でハビタブルゾーン内の地球型惑星にバイオマーカーを探ることが始まっています。
惑星探査研究センターでは、かわべ天文公園(和歌山県日高川町)などの地上望遠鏡を用いて系外惑星の観測を行っています。新たな系外惑星の探索や発見された惑星の特徴を調べることを目的としています。2019年は新たな系外惑星の観測キャンペーンに参加し、F型星という太陽より少し大きな恒星の周りを公転する木星質量の5倍の惑星の検出に成功し、その成果を国際学術誌に発表しています。
たくさんの系外惑星の観測を重ね、系外に地球のような環境の惑星を発見することを究極の目的にしています。
主な成果
2019
F型星の周りを5.6日の周期で公転する木星質量の5倍の惑星のフォローアップ観測
Phaethonによる恒星食観測
「JAXA探査目標の小惑星フェートン 道南で観測の試み 函中部高校などに専門家」(北海道新聞 8月23日)
「小惑星の恒星食観測できず「今後も挑戦」道南地域でサイエンスチーム」(函館新聞 8月23日)
あと一歩!雲にさえぎられたファエトン(アストロアーツ)
小惑星ファエトンによる恒星食、アメリカで歴史的な観測成功(アストロアーツ)
「ふたご座流星群の母天体「ファエトン」による恒星食」(星ナビ9月号)
木星トロヤ群小惑星やヒルダ群小惑星の起源は太陽系外縁天体が軌道進化か?
日高川町と千葉工業大学がかわべ天文公園の望遠鏡の利用協定締結
「かわべ天文公園天文台に関する協定書」が2019年4月1日付で締結されました。
2018
2017
ギャラリー
担当研究員:石丸 亮 (イシマル リョウ)
千葉工業大学 惑星探査研究センター 上席研究員