小惑星探査機「はやぶさ2」がフライバイを予定している小さな小惑星、2001CC21の掩蔽観測に成功し
形状のデータを得ることに成功
京都大学の有松亘氏を中心とし、本研究センターの非常勤研究員である吉田二美、上席研究員である秋田谷洋も所属する研究グループが、小惑星探査機「はやぶさ2」(以下、「はやぶさ2」)が接近し観測する小惑星2001 CC21の掩蔽(えんぺい)現象の観測に成功しました。さらに、新しい技術を用いてデータを解析することにより、この小惑星の形状が細長いことを示唆しました。本成果は、Publications of the Astronomical Society of Japan に2024年7月23日付で報告されました。
ポイント
- 小さな天体の掩蔽現象から得られたデータを解析する際に課題になっていた、回折の影響を削減する技術、Diffracted Occultation’s United Simulator for Highly Informative Transient Explorations (DOUSHITE)を開発しました。
- 「はやぶさ2」がフライバイを予定している、小さな小惑星2001 CC21の掩蔽現象の観測に成功しました。
- 小惑星2001 CC21の掩蔽観測データをDOUSHITEを用いて解析し、この小惑星はb/a = 0.37±0.09の軸比を持つ、細長い形状をしていることを示唆しました。
- 得られた結果は「はやぶさ2」がフライバイを行うにあたり、極めて重要な情報といえます。
- 本研究は従来よりも1桁小さいスケールの小惑星を対象とした掩蔽観測の成功に基づくものです。そのため、掩蔽現象の観測が新しい領域に入ってきたことを示す成果でもあります。
研究背景
小惑星が遠くの星の手前を横切り、星が一瞬隠れて見えなくなる現象を掩蔽といいます。掩蔽現象は過去60年間、小惑星の軌道やサイズ、形状を求めるために利用されてきました。特に、地上の望遠鏡で小惑星を観測しても分解能に限界があり、得られる情報は少ないため、掩蔽現象は小惑星を知るための重要な手がかりとなります。近年、位置天文観測衛星Gaiaの活躍により恒星の位置の測定精度が向上し、数キロメートルから1キロメートル以下のサイズの天体においても、いつ掩蔽現象が起きるかが予測できるようになりました。しかし、天体のサイズが小さくなると回折効果の影響が大きくなり、掩蔽現象の解釈が難しくなるという課題がありました。
研究成果
そこで本研究グループはDOUSHITEという、回折効果を正しく評価することができる新しいデータ解析技術を開発しました。そしてこの技術を用いて、小惑星2001 CC21の掩蔽現象を観測し形状推定を試みました。この小惑星は「はやぶさ2」が2026年7月に高速フライバイをする予定ですが、1キロメートル以下の非常に小さな天体であるため、その形状の詳細については明らかにされていません。
小惑星2001 CC21は、掩蔽現象の観測キャンペーンが2024年1月までに12回行われています。しかし、観測に成功したのは本研究の1回のみです。2023年3月5日の掩蔽現象の観測に成功しました。観測で得られたデータを、DOUSHITEを用いて解析することによって、この小惑星は長軸と短軸それぞれの大きさをa、bとしたときに、b/a = 0.37±0.09の軸比を持つ、細長い形状をしていることが示唆されました。
社会的インパクト
本研究によって、「はやぶさ2」がフライバイを行う小惑星2001 CC21の形状が細長いという、観測戦略をたてるために非常に重要な情報を得ることができました。さらに、本研究では従来よりも1桁小さいサイズの小惑星を対象とした掩蔽観測に成功しました。そのため、掩蔽現象の観測が新しい領域に入ったことを示したといえます。
今後の展望
小惑星2001 CC21のさらなる観測によって、より詳細なサイズや形のデータを得ることができると期待されています。また、数キロメートルから1キロメートル以下のほかの小天体の掩蔽観測を行い、新しいデータ解析技術DOUSHITEを適用することで、それらの形状を明らかにすることも期待されています。特に、新宇宙探査技術実証機DESTINY+の観測天体である、フェートンにおいては、今秋にも掩蔽観測を実施する計画が進行中です。
論文情報
掲載雑誌:Publications of the Astronomical Society of Japan
タイトル:Diffraction modelling of a 2023 March 5 stellar occultation by subkilometer-sized asteroid (98943) 2001 CC21
著者:Ko ARIMATSU, Fumi YOSHIDA, Tsutomu HAYAMIZU, Miyoshi IDA, George L. HASHIMOTO, Takashi ABE, Hiroshi AKITAYA, Akari ARATANI, Hidekazu FUKUDA, Yasuhide FUJITA, Takao FUJIWARA, Toshihiro HORIKAWA, Tamio IIHOSHI, Kazuyoshi IMAMURA, Ryo IMAZAWA, Hisashi KASEBE, Ryosuke KAWASAKI, Hiroshi KISHIMOTO, Kazuhisa MISHIMA, Machiko MIYACHI, Masanori MIZUTANI, Maya NAKAJIMA, Hiroyoshi NAKATANI, Kazuhiko OKAMURA, Misaki OKANOBU, Masataka OKUDA, Yuji SUZUKI , Naoto TATSUMI, Masafumi UNO, Hidehito YAMAMURA, Mikoto YASUE, Hideki YOSHIHARA, Masatoshi HIRABAYASHI, and Makoto YOSHIKAWA.