概要
PERCでは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東京薬科大学等と協力し、地球大気の成層圏(高度約10km~50km)における微生物採取実験“Biopauseプロジェクト”を進めています。
大気上部の生物分布(成層圏、中間圏)は、地球生物圏の上端“biopause”がどのようになっているのかを知る上で非常に重要です。宇宙から地球へ微生物やウイルスが入ってきているのか、逆に地球の生物が宇宙空間へ出て行くことがあり得るのかを、知る手がかりになります。これまでに、大気球や飛行機実験など様々な手段で調査が行われてきており、成層圏でも微生物が存在する可能性があると考えられています。
ところが、多くの先行研究では、採集方法の制約から、地上微生物の混入の可能性も完全には排除できていませんでした。また、採取試料の分析をする際に培養のみ行っており、培養できない種類の微生物を検出できない、浮遊している微生物の物理状態が判らない、等の問題がありました。
我々の気球実験では、成層圏に浮かんでいる微生物を、新たに開発した地上微生物の混入の可能性が少ない採集装置(降下式インパクター型微生物採取装置)を用いて採集し、培養法ではなく顕微鏡を用いて直接分析します。さらに、採取試料の分析から、成層圏に微生物がどのくらい存在しているのか、存在しているとすればそれは何故か、というプロジェクトの目標への手がかりを得ることが目標です。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の大気球などの飛翔機会を用い、これまで謎に包まれていた成層圏生物圏の全体像に迫っていきたいと考えています。
実験の概要
試料採集装置を、大気球を用いて成層圏まで上昇させます。その後、気球を試料採集装置から切り離し、パラシュートで降下しながら成層圏の浮遊微生物を採集します。
我々が考案した降下式インパクター式試料採集装置は、パラシュートでの降下途中に装置内部を通り抜ける大気中の微生物を試料採取板に衝突させ、捕獲します。この方式では、気球に付着していた微生物による混入を防ぐことが可能です。
動画
今後の展望
本実験は、降下式インパクター型微生物採取装置を用いた初めての研究例であり、試料採取の実証試験も兼ねています。将来的には、今回実証された採取装置を並列に複数個搭載して大気球実験を行うことで、成層圏微生物の鉛直分布の測定を計画しています。それにより、成層圏生物の動態を理解するとともに、地球生物圏の上端がどのようになっているかについての知見を得たいと考えています。
ギャラリー
担当研究員:大野 宗祐(オオノ ソウスケ)
千葉工業大学 惑星探査研究センター 上席研究員