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ASTROBIO 研究紹介 ー「赤い雨」から始まったASTROBIOプロジェクトについてー

 「赤い雨」プロジェクトがひと段落し、新たに「ASTROBIO」プロジェクトが始まりました。「赤い雨」プロジェクトを振り返り、「ASTROBIO」とは何か、三宅範宗上席研究員にインタビューを行いました。

三宅範宗上席研究員

「赤い雨」がきっかけでPERCに来た

 「赤い雨」とは、世界で稀に起こる赤い色の雨のことで、近年においては2001年にインドで、2012年にスリランカで観測されました。当時はなぜ、赤い色の粒子が雨と一緒に降ったのか分かりませんでした。原因については様々な説があり、例えば砂漠の砂ではないか、藻類の一種ではないか、あるいは隕石が落ちてきたような音がしたため隕石ではないかなどと考えられていました。さらには、その形が赤血球に似ていることから血だと考えている研究者もおり、コウモリの群れなどにあたってその血が雨と一緒に降ったのではないかという説もありました。

2001年インドで観測された「赤い雨」の粒子

 当時、私はイギリスの大学で「赤い雨」について研究していました。たまたま千葉工大を訪れる機会があり、その際に松井前所長に会いました。ちょうどその頃、松井前所長も赤い雨について調べていたので、一緒に千葉工大でやらないかという誘いを受けたのです松井前所長とは、実験へのアプローチから実証された客観的データのみを論文化にするという考え方で意気投合し、PERCへ来ることになりました。
 PERCに所属後、早速スリランカへ松井前所長と調査へ行き、サンプルを更にもらってきて実験を始めました。PERCでは期待通り、数多くの実験を行うことができ、最終的に雨滴内の赤色粒子はシアノバクテリアの一種だということを突き止めました。赤い雨とは何か?という疑問に終止符を打つことができたのです。

「赤い雨」の続き ー上空で色素変化が起こりえるのか?色素変化のメカニズムを検証ー

 現在は「赤い雨」の正体がシアノバクテリアだったということを受け、赤い色素に変化したシアノバクテリアの起源を探っています。どのようなメカニズムで色素変化が起きたのか、シアノバクテリアが大量に空から降ることが可能なのか、どこから来るのかを明らかにすることが目的です。これまで紫外線を当ててみる、殺してみるなど、単体での刺激を与えた色素変化は検証されていますが、私は「上空で色素変化が起こり得るのか?」という点に注目し研究を進めています。もし成層圏でこのような色素を持った微生物がいるのであれば、一体どういう形状や色をしているのかについて検証し明らかにすることも目的の一つです。これは、成層圏微生物採取実験「Biopause」プロジェクトと密接につながっています。また、他の惑星の極限環境と似たような環境を地球上で見つけ、そこの微生物は他の惑星の類似する極限環境でも生きていけるのかを検証するために、惑星地質プロジェクトとも連携しています。

本研究の一番面白いところ ー高度を変化させる世界でただ一のチャンバーを用いた実験ー

 上空で色素変化が起こりえるのかを明らかにするために、世界で唯一の装置を開発し、実験を行っています。高高度上空を模擬できる上に、同時に微生物を培養できる環境を構築しており、色素がどこで変わるかが分かる、とても画期的な装置です。具体的には、気圧、温度、紫外線強度をコントロールすることができ、オゾン層の上の短波の紫外線も当てることができるため、地上の環境からどんどん高度を上げ、また降りていくという環境変化が実現可能です。

 微生物の種類によっては、紫外線や寒さや気圧の変化に耐えられるなど、耐性が各々異なります。その耐性が違う微生物をそれぞれ試験することで、様々な種類の微生物の耐えられる高度を明らかにすることができるのです。

高高度上空環境模擬チャンバー

ASTROBIOとは?

 私がこれまで行ってきた、そして今行っている生物関係の実験の究極の目的は、「宇宙に生命がいるか?」「いたとしたら、どの様な生き方をしているのか?」という謎を解明することです。宇宙に生命がいるとすれば微生物であると考え、検証をしています。例えば、「他の惑星だと、シアノバクテリアはどのような色をしているのか?」という疑問を、大気組成や環境を模擬して実験することで解明していきます。このように、生物学の視点から宇宙生命の可能性を探るプロジェクトが「ASTROBIO」だと考えています。

(2025年6月)