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火星環境模擬実験

2025年1月中旬に,火星環境シミュレーションチャンバ(通称火星チャンバ)を使った実験を行いました。

火星チャンバは火星の表面環境(気温,気圧,大気組成)を再現するためのチャンバで,直径 1m,奥行き 80cm の円筒形をしています。中には幅 40cm 奥行 60cm のベースプレート(ステージ)があり,ここに装置を並べて火星環境下での装置の動作を観察することができます。装置の温度状態の監視や電力供給,装置からの出力のモニタも可能です(このため実験中内部はケーブルがごちゃごちゃします)。

火星の大気は,標高によりますがおよそ 1/200 気圧で,夜間には-100℃近くまで温度が下がります。地球の高度 30km(成層圏)の環境に似ていると表現されることがありますが,決定的に違うのはその組成です。

地球の大気のほとんどは酸素と窒素からなります。これに対して火星の大気は95パーセントが二酸化炭素。他に窒素やアルゴンなどが含まれます。組成が違っても気温や気圧は物理量なのだから同じでしょ?と思うかもしれません。しかし組成が異なると大気の粘性(粘っこさ)が違います。その結果,例えば気圧計でも計測原理によっては異なる応答を示します。特に影響が大きいのは音の伝わり方です。二酸化炭素は波のエネルギーを吸収して分子の振動エネルギー変えてしまうため,音波はすぐに減衰してしまうのです。

火星表層環境でも気温や気圧,風の速度を正確かつ安定して測れる装置の開発は案外難しく,我々のチャンバ使って試行錯誤を重ねているところです。

(千秋 博紀)