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今年で4回目、千葉県教育センター研修会実施!
8月27日、津田沼校舎2号館3階の大教室で、千葉県教育センター主催の研修会が開催されました。この研修会は、千葉県内の小中高の教員や教育関係者を対象に、「宇宙研究に学ぶ実践研修」というテーマで行われ、今年で4回目の開催となりました。
この研修会の目的は、中学生や高校生が学ぶ物理学の知識を活かして、宇宙に関する先進的な研究に触れ、受講者の専門性を高め、学校での指導に役立てることです。難しそうに見える宇宙探査の技術も、高校生レベルの物理の応用であり、身近なものを使って体験できることを伝えるため、PERCで行っている惑星探査の研究について、第一線の研究者による講義と簡単な実験が行われました。
実験は、研修を受けた先生方が学校に戻って生徒に教えられるように、身の回りにあるもので工作できる内容となっており、小林正規PERC副所長・主席研究員が考案しました。
当日は36名の参加者が10班(それぞれ3~4人)に分かれて工作・実験を行いました。具体的な研修内容は昨年度とほぼ同じで、次のような内容でした。
1限目:メテオによる科学的成果を体験(10時30分~12時30分)
1限目は、多くの惑星探査ミッションで活用されている分光観測について、通販サイトなどで簡単に手に入る材料とスマホやタブレットのカメラ機能を使って実験を行いました。荒井朋子PERC所長・主席研究員がPERCとNASAが共同で行ったISSからの流星観測カメラ・メテオの観測や他の惑星探査ミッションについて講義を行い、分光観測がどのように活用されているのか説明がありました。それに続いて参加者には、流星カメラで流れ星の分光観測をする原理について実際に体験していただきました。(写真1)
まず、透過型の回折格子を用意しました。回折格子シートはインターネット通販で安価に購入できます(A4サイズで約千円)。これを小さく切ってカメラのレンズの前に貼るだけで、簡単に分光カメラが作れます。
参加者の皆さんには、スマートフォンやタブレットなどの携帯端末を使って回折格子をカメラレンズの前に貼り付けてもらいました。この研修では、中学・高校の生徒でも手に入れやすい材料を使うことを条件に、工作や実験を企画しました。普段は学校への持ち込みや使用が禁止されているスマホを教育に活用する点が特徴です。
回折格子をカメラレンズの前に貼るだけで、遠くの星などの点光源を分光カメラで観察できます。ただし、点光源でない光の場合は分光の様子が分かりにくいため、カメラの前に入射する光を絞るフードを厚紙で作り、取り付けてもらいました。
また、透過型の分光器として回折格子を使う一方で、CD(コンパクトディスク)を使って反射型分光器も作成しました。光の入射方向とカメラに光を入れる方向の角度調整が難しいのですが、予め用意した図面通りに工作用紙を切って作成したので、皆さんうまく反射型分光器を作ることができました。
身の回りにある照明でも、蛍光灯、LED、白熱灯、ハロゲンランプ、太陽の光など、それぞれスペクトルが違います。手作り分光カメラでもそれらの違いをはっきりとわかり、参加者の方々はスマホを組み合わせた分光器をそれぞれ光源が異なる照明に向けて興味深そうに見入っていました。(写真2)
当日は晴れており、時折強い日差しが降り注いでいました。手作りの分光器を使って、太陽光のフラウンホーファー線(太陽と地球の観測者の間の物質によって吸収されることによって太陽光のスペクトル中に暗く見える暗線)を観測しました。参加者の方々は暗線を見つけては歓声を上げていました。(写真3)
2限目:はやぶさ2による衝突実験を体験(13時30分~16時00分)
午後は、はやぶさ2に搭載された小型衝突装置SCI(Small Carry-on Impactor)とDCAM3(Deployable Camera)についての講義と実験が行われました。SCIは「はやぶさ2」から小惑星リュウグウに向けて発射され、リュウグウの表面にクレータを作る実験を行いました。その様子はDCAM3で記録されました。この実験は大成功し、リュウグウの表面に衝突体が当たってイジェクタが放出される様子は世界中で報道されました。
和田浩二PERC副所長・主席研究員は、SCIやDCAM3の開発において中心的な役割を果たしました。和田副所長は研修の参加者に対して、SCIの実験に関する講義を行いました。(写真4)その後、参加者はSCIとDCAM3に関連した実験を体験しました。
この実験は、身の回りにあるものを使って行いました。小惑星表面のレゴリスは、サンドブラスタで使用する研磨材(ガラスビーズやセラミックスの粉末)で模擬して、SCIの代わりとなる衝突体は、ガチャガチャのカプセルを利用して作成しました。小林PERC副所長が実験の手順やコツなどをスライドで説明した後、班ごとに実験をしてもらいました。(写真5)
衝突体の衝突によって生成されたクレータのサイズ、それからイジェクタが飛ぶ角度を実験データとしてノートに記録してもらいました。それぞれの班ごとに異なる模擬レゴリス(異なる材質の研磨材)を使って条件を変えて実験しました。衝突体を落下させてイジェクタが飛び散るたびに歓声が上がっていました。衝突の瞬間、イジェクタが飛び出す様子を各自のスマホやタブレットで撮影し、それをスロー再生して画面に映し出されるクレータ生成の様子に見入っていました。
最後に、全ての班が取得した実験データを集め、和田PERC副所長が解析を行いました。この解析では、実際に「はやぶさ2」の宇宙衝突実験のデータの解析にも使われたスケーリング則に合致しているかどうかを確認しました。その結果、「はやぶさ2」のSCIが作ったリュウグウ表面上のクレータの直径と、実験結果が、ひとつのスケーリング則に概ね一致していることが分かり、参加者の皆さんは驚いていました。
(小林正規)