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今年で3回目、千葉県教育センター研修会実施!

 8月23日に津田沼キャンパス2号館3階の大教室で、千葉県教育センターの研修会が開催されました。千葉県の中学・高等学校教員・教育関係者の方々に、中学生・高校生で習う物理学の知識でも理解できる宇宙に関する先進的な研究の実際に触れ、受講生の専門性を高め、学校での指導に役立てるということで「宇宙研究に学ぶ実践研修」というタイトルでの研修会で、今年度で3回目の開催でした。

 難しそうに見える宇宙探査の技術も、高校生の学習レベル程度の物理の応用であること、身近なものを使って体験できるものであるということをPERCで行っている惑星探査の研究について第一線の研究者の講義と簡単な実験を通じて学んでいただけるよう考えました。実験は、研修を受けた先生方が職場であるそれぞれの学校に戻って生徒さん達にそのまま教えられることを想定して身の回りにあるものを使って工作できるように、小林正規PERC副所長・主席研究員が考案し、当日の工作・実験の解説を行いました。

 当日の参加者は23名で、7つの班に分かれて工作・実験をしてもらいました。具体的な研修内容は次のとおりでした。

1限目:メテオによる科学的成果を体験(10時30分~12時30分)

 1限目は、多くの惑星探査ミッションで活用されている分光観測について、通販サイトなどで簡単に手に入る材料を使って実験を行いました。荒井朋子PERC所長・主席研究員がPERCとNASAが共同で行ったISSからの流星観測カメラ・メテオの観測や他の惑星探査ミッションについて講義を行い、分光観測がどのように活用されているのか説明がありました。それに続いて参加者には、流星カメラで流れ星の分光観測をする原理について実際に体験していただきました。

 まずは、透過型の回折格子を用意しました。回折格子シートはインターネット通販で安価に手に入れることができます(A4サイズで千円程度)。それを小さく切ってカメラのレンズの前に貼るだけ、原理的にはこれで分光カメラができます。参加者の皆さんにはお手持ちの携帯型端末(スマートホン、タブレットなど)を使って回折格子をカメラレンズの前に貼り付けてもらいました。この研修では中学・高校の生徒でもすぐに手に入るものだけを使って、という条件で工作・実験を企画しましたが、普段学校への持込や使用は禁止されているスマホなどを教育にも活用するという点で利用しました。

 回折格子をカメラレンズの前に貼るだけで、遠くにある星など点光源であればこれで分光カメラになるのですが、点光源ではない光だと分光している様子が分からないので、カメラの前に入射する光を絞るフードを厚紙で作ってもらってそれを取り付けるようにしました。

 身の回りにある照明でも、蛍光灯、LED、白熱灯、ハロゲンランプ、太陽の光など、それぞれスペクトルが違います。(写真)

 手作り分光カメラでもそれらの違いをはっきりとわかり、参加者の方々は興味深そうにフード付きスマホを違う照明に向けて興味深そうに見入っていました。(写真)

 回折格子は透過型の分光器になるのですが、別の種類の分光器、反射型分光器をCDを使って作りました。光が入ってくる方向と目で除く方向(カメラに光を入れる方向)の角度が難しいのですが、予め用意した図面どおりに工作用紙を切って作成してもらったので皆さんうまく反射型分光器を作っていました。

2限目:はやぶさ2による衝突実験を体験(13時30分~16時00分)

 午後は、はやぶさ2に搭載された小型搭載型衝突装置SCI(Small Carry-on Impactor)とDCAM3(Deployable Camera)に関する講義と実験でした。SCIは「はやぶさ2」から小惑星リュウグウに向けて発射されて、リュウグウの表面にクレータを生成する「宇宙衝突実験」を行い、その様子を映像で記録するのがDCAM3でした。当時多くの報道で紹介されたように実験は大成功に終わり、リュウグウの表面にSCIから射出された衝突体が衝突してイジェクタが放出される様子は世界中で広く報道されました。(http://www.perc.it-chiba.ac.jp/projects/hayabusa2

 和田浩二PERC副所長・主席研究員のSCIやDCAM3の開発について中心的な役割を果たした研究員であり、その当事者から研修の参加者の方々にSCIの実験に関する講義をしました。その後、SCIとDCAM3に因んだ実験を参加者の方々にやっていただきました。

 この実験もすべて身の回りにあるものを使って行いました。小惑星表面のレゴリスはガラスビーズなどの粉末(サンドブラスタで使用する研磨材)で模擬して、衝突体であるSCIはガチャガチャのカプセルを利用して作りました。そして衝突の瞬間、イジェクタが飛び出す様子を撮影するDCAM3の代わりに各自のスマホ・タブレットで動画を撮って衝突イジェクタ実験を行いました。

 事前に考えておいた実験の手順やコツなどをスライドで説明した後、

少人数の班ごとに実験をしてもらいました。

 実験データとしては、衝突体の衝突によって生成されたクレータのサイズ、それからイジェクタが飛ぶ角度です。それぞれの班ごとに異なるレゴリスの条件(ガラスビーズなど研磨材の粒径や材質)で行ないました。

 手際よく実験データを取得する班もあれば、悪戦苦闘して粘り強く実験を続ける班もありましたが、参加者の方々は皆さん一生懸命に取り組んでいました。

 最後は、全ての班が取得した実験データを集めて、実際に「はやぶさ2」の宇宙衝突実験のデータの解析にも使われたスケーリング則に合致しているかどうか、和田PERC副所長が解析を行いました。その結果、見事参加者の方々の実験結果はスケーリング則に一致していることが分かり、皆さん驚きと安どの表情を見せていました。