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レーザ距離計のフィールド試験
北海道広尾郡大樹町にある,大樹航空宇宙実験場にて,火星衛星探査計画(MMX) 搭載用レーザ距離計(LIDAR)のフィールド試験を行ってきました.
レーザ距離計は,射出したレーザがターゲット表面で散乱されて返ってくるまでの時間を計測し,そこからターゲットまでの距離を求める装置です.実際の運用では距離 100 m から 100 km までの距離を計測するのですが, 今回は大樹航空宇宙実験場の滑走路を使って, 100 m から 1 km までの範囲で測定を行いました.射出するレーザをフィルタを使って減衰させることで,タイミング(距離)は違うものの,遠くにあるターゲットからの弱い光でもちゃんと計測できることを確認する試験も行いました.1 km と聞くとスケールの小さい試験に思えてしまうかもしれませんが,普通に歩くと片道15分くらいかかります.声が届かないばかりか,大きく手を振ってもよく見えません.
ターゲットの設置や調整,安全確認のための移動は,あらかじめ打合せをして決めておくのはもちろん,お互いがインターネットに接続し,ウエブ会議を利用したビデオチャットで連絡を取り合いました.8年前に同様の試験を行ったときにはトランシーバを使ったのですが,電波の入りが悪かったり風音でうまく聞き取れなかったりで苦労したのですが,ネット経由は音質も良好.便利な世の中になったものです.
LIDAR が計測する範囲の 100 m と 100 km とでは,距離では 1,000 倍の違いですが,装置が受け取るエネルギーは距離の2乗に比例するため, 1,000,000 (百万) 倍もの開きが生じます.このため MMX 搭載用 LIDAR は,受け取るエネルギーに応じて装置の感度を調整する 自動感度調整機能(Auto Gain Control; AGCと呼ばれる)を 持っています. 今回の試験では,距離を測定できるかという確認のみならず,この自動感度調整機能が期待通り働くことの確認も行いました.
この図は結果の一例で,ターゲット板を取り付けた台車を遠ざけながら計測したものです.台車は,あらかじめ決められた距離に到達すると数分間停止し,また移動を再開することを繰り返し,20分以上かけて滑走路の端まで到達したことがわかります.まるで自動制御で動かしたかのような書き方をしましたが,実際は人力です.ターゲットが傾いたり装置の視野から外れることのないように台車を引くのはなかなか大変です.
グラフの色は,LIDAR が計測した受光強度に対応しています.ただし,実際のエネルギー量ではなく装置から出力された値で,感度の補正はされていません.このため,黒矢印で示されている10:53 ごろと 11:06 ごろの色の飛びは,感度が自動調整されたことを表しています.感度が変更になっても距離値は安定しており,感度調整が問題なく行われていることがわかります. データの詳細解析はまだ継続中ですが,こういう数字が出てくると,実感が沸いてきます.
なお,この試験は緊急事態宣言下で行われました.フィールド試験なので換気は十分ですが, 試験にあたっては参加者の2週間前からの体温の記録,飛行機搭乗前の PCR 検査を行い,現地では手指の消毒,会話時のマスク装着など,できる限りの対策を行い,装置の扱い以外にも緊張を強いられる試験となってしまいました.新型コロナウィルスの流行が早く収まって欲しいものです.