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Phaethonの掩蔽観測キャンペーン

 DESTINY+のプライバイターゲットである小惑星(3200)Phaethonによる恒星食が今年9月に北海道で起こりました。そこで大学の学生や日本の掩蔽観測グループのメンバーに声をかけ、DESTINY+ プロジェクトから支援を受けて、International Occultation Timing Association – East Asia(IOTA/EA)の観測キャンペーンとして観測を実施しました。

図1 掩蔽帯

 全国から集まってくれた観測者は34名、このうち大学生が23名、研究者が4名、アマチュア観測家が7名でした。DESTINY+プロジェクトが支援したPhaethonの掩蔽観測キャンペーンはこれで5回目ですが、20名を超える大学生が参加してくれたのは今回が初めてです。掩蔽帯が北海道ということもあり、北海道大学の皆さんが参加してくれました。観測者たちは13の観測サイトに分かれてそれぞれ望遠鏡を設置し、Phaethonによる恒星食の瞬間を待ち構えました。観測サイトはPhaethonの影が通ると予報された掩蔽帯中心から南北に500m間隔で配置され、13の観測地点で得られた観測データを合わせれば、Phaethonの影全体の形状がわかるように計画されました。

 今回、Phaethonにより隠される恒星はUCAC4 660-021020という13.1等星です。ペルセウス座にあります。これまでにPhaethonの掩蔽観測キャンペーンで観測してきたどの星よりも暗い星です。それでも今回予報されている掩蔽の継続時間は最長で0.66秒といつもより長めなので、CMOSカメラのフレームレート少し下げて露出時間を長めにすれば、観測可能と思えました。

 掩蔽予報時刻は、日本時間で2025年9月20日1時52分ごろ。観測日当日の天気予報は夜になると雲が出てくるという予報でした。掩蔽される星が13等と暗いので、薄い雲がかかるだけでも星が見えなくなってしまうかもしれません。

 観測者の皆さんには天候を見て掩蔽帯内の広い範囲に散らばってもらいましたが、土地勘のある北海道大学の学生や、移動観測に慣れているアマチュア観測家の皆さんには、あらかじめ計画していた掩蔽帯の中心からの距離が重ならないように自由に動いてもらい、観測地の移動が難しかった関西学院大学と九州工業大学の観測グループは最初の計画通りの位置で観測を行いました。

図2 観測者たちが布陣した場所:掩蔽予報時刻にはだんだん曇ってくるとの天気予報だったため、渡島半島から日高の方まで広く分布してもらった

 筆者は、まだPhaethonの掩蔽観測で実績のなかった九州工業大学のグループに同行しました。観測地は北海道伊達市郊外の住宅地の中の川の側の駐車場で、望遠鏡を設置するには十分な広さがありました。木立の間から空もよく見えます。

 レンタカーから望遠鏡セットを下ろして観測準備開始です。学生たちは望遠鏡のセッティングにかなり苦心していました。いつも九州で観測をしている九州工業大学の学生たちにとって、北海道で見る北極星は高度がかなり高く、九州から運んできたままの望遠鏡の極軸望遠鏡でのぞいても当然の視野の中に北極星はいません。北海道と九州でこんなに空の見え方が違うのかと感動しながら準備をしていきます。いくつか明るい星を視野内に入れてアライメントを取ったら、Phaethonが隠す予定の星を導入します。CMOSカメラの視野が狭いので、なかなか観測対象の星が入ってくれません。慎重に少しずつ望遠鏡を動かしていきます。このとき九州工業大学の藤川くんの作った導入補助ソフトが活躍しました。このソフトは望遠鏡をどちらに動かせば対象星を視野に入れることができるかを矢印で示してくれます。さすが工学部の学生です。この手のソフト制作はお手のもの。

 観測時刻を待っている間に湿度が上がってきました。結露しないように望遠鏡にドライヤーで時々風を送りながら待ちます。天気予報通り雲も出てきて、掩蔽時刻まで天気が保つか不安になってきました。雲の動きが早くて、他のグループの観測者たちも確実に観測できる場所を見つけるのはなかなか難しい状況だったようです。

 観測時刻が近づいてきたときは上空に風もあったのか、星像がぼやけます。この観測グループに同行してくれていたアマチュア観測家の宮下さん(IOTA/EAのメンバーでいつも難しい解析を担当してくれる)が、こんな不安定な観測条件の時にどのようにフレームレートを決めるべきか学生たちにアドバイスしてくれます。

 予報された掩蔽発生時刻が近づいてきて、録画を開始し、皆固唾を飲んでモニターを見つめます。「あっ消えた!」誰かが叫ぶと次々と「消えた」「消えた」と声が出ました。観測成功!

 録画された動画を再生して、その場で簡易解析してみますと、確かに目で見えた通り、対象星の減光が検出されました。我々は確かにPhaethonの影の下にいたのです。

図3 星空の下で観測準備をする九州工業大学AstroKITのメンバー。

図4 イェーイ観測成功!寒い中お疲れ様でした。

 他の観測サイトからの結果が次々にあがってきました。まとめると、観測成立:5(減光4点、通過1点)、観測不成立8(雲または装置トラブル)。やはり雲により観測が阻まれた地点が多かったようです。

 みなさんの観測結果を集めて作成したのが図6の整約図です。減光が観測された4箇所の観測サイトの位置と、減光の継続時間をもとに、整約図を作成し、掩蔽時刻に地球から見えるPhaethonの断面図を重ね合わせてみました。No.7はGPSの時刻取得に失敗したので、時刻がずれていますが、減光の継続時間は信用できます。Phaethonの影は予報より南を通過したようです。

図5 減光が観測された観測サイトで得られたライトカーブ。S/Nはよくないものの、Phaethonによって対象星が掩蔽された証拠である減光がちゃんと受かっていました。対象星が暗い上に大気が不安定な中での観測でした。

図6 整約図。減光が観測されたのは関西学院大学の観測グループ(整約図ではNo.7)、九州工業大学の観測グループ(No.9)、井田さん(No.10)、北崎さんのグループ(No.12)。整約図上のNo.8が予報中心である。これまでの観測でPhaethonの赤道直径が6.1km程度とわかっているので、S. Marshall氏作成のPhaethonの3D形状モデルから掩蔽時刻のPhaethonの断面図を千秋博紀氏が作成し、整約図に重ねた。重ねるに際にスケーリングは手動。No.7はGPSの時刻取得に失敗したので、時刻がずれているが、減光の継続時間は信用できる。実際の影は予報より南を通過したようである。

観測に参加していただいた皆さんのお名前

秋田谷洋(千葉工業大学天文学研究センター)、野田寛大(国立天文台)、山本紫苑*、松浦周二、笹山涼*、北川穂乃実*(関西学院大学)、根元 健**(JOIN)、坂内崚真*、大藤勇亮*(関西学院大学)、吉田ニ美(産業医科大学、千葉工業大学惑星探査研究センター)、宮下和久**(JOIN)、當銘優斗*、藤川至誠*、大見智樹*、川本海禄*、平井敦埜* (AstroKIT 九州工業大学)、松岡亮*、大島歩*、植田知幸*、宮川桃佳*、大成賢斗*、西野由禅*、山下有情*、安江水琴*、阿部隼之*、平井美穂*、中村*、西村希*、茂木 遥平*(北大地球科学サークルGROUND、北海道大学)、井田三良**(JOIN)、北崎勝彦**(JOIN)、北崎直子**、加藤万佐子**(中野星の会)、山村秀人**(NPO花山星空ネットワーク)

大学生*、アマチュア**

 

観測の様子のビデオ

 

九工大が撮影したPhaethonによる恒星食の動画

 実は前回2022年の10月にPhaethonの掩蔽観測キャンペーンを実施したときもPhaethonは予報より南側を通過して行きました(参照論文 Fumi Yoshida, Tsutomu Hayamizu, Hayato Watanabe, Hiroshi Akitaya, Kazuhisa Miyashita, Hirotomo Noda, Mitsuru Sôma, Chilong Lin, Ye Yuan, Wai-Chun Yue, Toshihiro Horaguchi and Sean Marshall, Formation of the International Occultation Timing Association/East Asia (IOTA/EA) and occultation observations of asteroid (3200) Phaethon. Phil. Trans. R. Soc. A.38320240190 (2025) http://doi.org/10.1098/rsta.2024.0190)。

 なぜよく決まっているはずのPhaethonの軌道がずれたのか?その原因としてPhaethonが近日点付近で受ける非重力効果を検討しましたが、そのような効果ではPhaethonの軌道がずれたことは説明できそうにありません(参照論文 Senshu Hiroki, Noda Hirotomo, Yoshida Fumi, Ito Takashi, Hamm Maximilian and Marshall Sean, Yarkovsky and YORP effects simulation on 3200 Phaethon. Phil. Trans. R. Soc. A.38320240205 (2025) https://doi.org/10.1098/rsta.2024.0205)。

 今回もまた予報より南にずれたのは何らかの理由があるはずです。我々はその原因を追求していますが、まだずれた理由を明らかにできていません。以下の図のように2026年は2回のPhaethonによる恒星食の観測チャンスがあります。再度観測キャンペーンを行う予定なので、今度こそ、軌道のずれの原因を明らかにしたいと思います。

図7 2026年10月31日。Phaethonによる掩蔽帯は北海道札幌付近を横切る。

図8 2026年11月5日。Phaethonによる掩蔽帯は九州と韓国を横切る。

(吉田 二美)