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ASTERISC軌道上粒子の観測成功、ミニマムサクセス達成!

打ち上げから3か月間ASTERISCを運用をしてきましたが、ようやく最初の成果をリリースしました。
https://www.it-chiba.ac.jp/topics/pr20220215_1/

せっかくの良い報告ですので、以下に簡単に紹介したいと思います。

①ダストセンサー展開成功

数の少ない軌道上の粒子を観測するにはASTERISC本体より大きいダストセンサーを使う必要があります。そのため、ASTERISCは独自開発の膜型ダストセンサーを打ち上げ時に畳んで収納し、軌道投入後に展開する設計となっています。センサーを展開するコマンド(指令)を実行し、オンボードカメラで撮影して確認したところ、見事に展開成功していることがわかりました(図1)。何度も繰り返し試験が可能な形状記憶合金を用いた把持解放機構を開発できたことが信頼性の確保につながり成功できたと考えています。コマンド受信アンテナも同様の把持解放機構を用いて展開成功したので、成功率100%です。

図1. 展開した膜型ダストセンサーをオンボードカメラで撮影した自撮り画像。設計した形状通りの展開に成功したことが確認されました。ダストセンサーが固定されたパドル面に印字された千葉工業大学の校章とPERCのロゴ、地球、ダストセンサーが同時に映ったこの画像は特に計算せずシャッターを切ったにしては想像以上に素晴らしく初めて見た時には思わず声が出ました。

②軌道上の粒子の観測に成功(ダストセンサーの技術実証成功、ミニマムサクセス達成)

これまでの初期運用で実施してきた試験観測のデータを解析した結果、軌道上粒子の観測に成功していることがわかりました。図2が第1号の粒子観測データです。私達が独自に開発した膜型ダストセンサーは8個の特殊な素子を膜上に接着し、粒子が膜面に衝突することで発生する弾性波(膜を伝わる振動のようなものと考えて下さい)を膜上の複数の素子によって電気信号として捉え観測します。図2のデータは、信号周波数・各素子に信号が到達する時刻・各素子の信号の大きさなど複数の判定基準を全て満たすため、確かに真の粒子観測イベントであると判定しました。私達のセンサーは全く新しい方式でしたが、今回の観測成功をもって軌道上での技術実証に成功しました。従来のダストセンサーは真の信号とノイズの区別が難しいのが大きな課題でしたが、私達のダストセンサーは上述したように複数の判定基準で明確に両者を区別することができる技術です。さらに、膜面全体をダストセンサーにできるので膜を大きくするだけで大面積化が容易であること、シンプルな構成で安価であること、粒子の運動量がわかること、他の用途の膜(MLI、ソーラーセイルなど)に容易に粒子観測機能を付加できることなど多くの利点がある技術であり、将来の深宇宙探査での利用など多くの展開が期待されます(ダストは惑星表面、惑星の軌道上、惑星間空間などあらゆる場所に存在するので、実は利用先はたくさんあります)。

ダストセンサーの技術実証に加え、バスシステム(電源系、通信系、データ処理制御系、姿勢系)についても、高速テレメトリ通信、磁気トルカによるスピン安定指向制御など観測運用に必要な全ての技術項目の軌道実証に成功しています。ミッション系・バスシステム系いずれも軌道上実証に成功したため、宇宙塵探査実証衛星ASTERISCはミニマムサクセスを達成しました。初期運用を完了し、いよいよノミナルの定常観測運用を開始できることとなりました。今後、本センサーを用いた長期的な観測により、軌道上の粒子(天然の宇宙塵、微小スペースデブリ)の量・飛来方向など明らかにしたいと考えていますのでご期待ください

(石丸 亮)

図2. 実際にASTERISCが軌道上で取得した粒子観測データ。膜面上に接着された8個の圧電素子で同時に受信した信号波形を解析することでノイズと真の信号を明確に区別することができます。観測された粒子のサイズは0.1~1μm(マイクロメートル)程度と推定されます。

プロジェクトの詳細については以下をご覧ください。

PERC超小型衛星2号機:宇宙塵探査実証衛星「ASTERISC」