プロジェクト
高速度衝突実験
概要
月面のクレーターが物語るように、「できたての地球」は激しい天体衝突にさらされました。この時代に地球上に大気や海、生命が現れたことがわかっています。PERCでは地球史における天体衝突の役割を実証的に調べるため、津田沼キャンパスに衝突実験室を設置しています。飛翔体加速装置を用いて実験室内で天体衝突現象を再現し、超高速度衝突によって引き起こされる様々な現象の解明に挑んでいます。より具体的には、高速ビデオカメラによる撮影、高速分光計による分光計測、四重極質量分析計を用いた発生ガスの組成計測などを実施しています。
研究ハイライト
2015年9月 | 地球の金属核のシリコン含有量を解明 天体重爆撃が金星を乾燥させた新たなる説を発表 |
2017年8月 | 太古の火星大気圧を推定 |
2017年12月 | 天体衝突による火星隕石の放出メカニズムを解明 |
2018年1月 | 隕石の記憶は容易に消去される―天体衝突時の加熱過程における物質強度の効果を解明― |
2019年7月 | 衝突蒸気雲の気相化学分析手法を開発―二段式軽ガス衝撃銃の50年来の弱点を克服― |
2019年9月 | 火星衛星探査に向けた国際的な惑星保護方針への貢献ー火星衛星微生物汚染評価に関する科学的研究成果を発表。国際ルール設定へ主導的な役割ー |
ギャラリー
施設概要
基本性能
- 飛翔体直径:0.1-4.8mm
- 設計最高速度:9km/s
- 水圧ピストンによる組み上げ
- 銃身の自動洗浄装置
- サボを用いた任意の飛翔体加速
衝突化学に特化した計測機器群
- 高速ビデオカメラ
- 時間掃引型高速分光計
- 四重極質量分析計
実験チャンバ群
- 大容量(400L)基本チャンバ
- 冷却ステージ付き箱型チャンバ
- 無隔膜の人工流星観測チャンバ
- 近距離撮像用小型チャンバ
研究成果

千葉工業大学惑星探査研究センターで行った衝突実験の様子です。直径4.6 mmのポリカーボネイト球を直径3 cmのアクリル球に秒速7.3 kmで正面衝突させました。衝突現象の一部始終を高速ビデオカメラで撮影しています。撮影速度は200万コマ毎秒(毎コマ0.5 マイクロ秒)です。これは地球形成後に起きたとされる最も大きな天体衝突事件の再現実験です。
直径3 cmの標的の球を地球に見立てると、衝突してくる飛翔体は直径2000 kmに相当します。標的がプラスチックであるため、衝撃波が通過し、破砕されていく様が詳細に捉えられています。また放出物に注目すると、衝突直後には強い光を放つ高温物質が放出されていますが、次第に様相が変化していきます。放出物の先端に向かうに従って模様がなくなっていくことがわかります。これは初期に飛び出した先端部分は気化、中間部分では熔融、放出物の根本では固体のまま破砕され放出されていることを示唆しています。
このように千葉工業大学惑星探査研究センターの高速度衝突実験施設では衝突現象の一部始終を詳細に観察・分析することができます。

千葉工業大学惑星探査研究センターで行った衝突実験の様子です。直径4.6 mmのポリカーボネイト球をアルミニウムの板に秒速6.5 kmで衝突させました。標的を45度傾けて設置することで、実験室で天然の斜め衝突現象を再現しました。
天然の天体衝突はすべて斜め衝突でおこり、最も起こりやすい角度が45度です。この実験では地球への天体衝突を想定し、実験用真空槽に窒素ガスを満たした状態で衝突させました。飛翔体が窒素ガス中に衝撃波を発生させている様子がよくわかります。アルミニウム板に衝突すると、標的の表面に沿うように移動する超高速の放出物が観測されています。このように地球に起こる天体衝突を実験室で再現し、 詳細に観測することによって、過去に地球が経験した天体衝突の環境への影響を調べています。
動画
お問い合わせ
黒澤 耕介 (くろさわ こうすけ)
千葉工業大学 惑星探査研究センター 上席研究員
TEL/FAX: 047-478-4386 / 047-478-0372
E-Mail : kosuke.kurosawa[at]perc.it-chiba.ac.jp