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第1回月ー地球圏ダスト環境ワークショップ を開催しました。

 去る6月30日(木)に第1回 月ー地球圏ダスト環境ワークショップをオンラインで開催しました。半日という限られた時間でしたが、講演者を含め70名が参加し、密度の濃い有意義なワークショップとなりました。講演者のみなさまにはご協力に感謝いたします。また、新しい試みである今回のワークショップに参加いただいた多くの皆様にも感謝いたします。

本ワークショップの目的は、 地球周回軌道、月周辺及び月面を研究対象あるいは活用・活動領域とする学術界及び産業界の関係者の間で、月ー地球圏のダスト(天然由来の宇宙塵と人工由来のデブリを総称)環境について最新の知見を共有し、課題やニーズを議論することです。なぜ、この時期にこのようなワークショップを開催したか、少し経緯を紹介します。

 近年、スペースX社の人工衛星通信網「スターリンク」など小型衛星の打ち上げ数の急激な増加により、地球周回軌道にスペースデブリ(宇宙ゴミ)が増え続けています。地上からのレーダや光学望遠鏡で追跡可能な10㎝以上のデブリは2万個以上、追跡不可能なものは1億個以上あると考えられています。また、 地球近傍には惑星間塵、星間塵、流星群塵などの宇宙塵(固体微粒子)が定常的に存在しています。

 地球に飛来する宇宙塵は、形成初期の地球に生命の種をもたらした可能性があり、地球惑星物質科学やアストロバイオロジー(宇宙生物学)の観点で重要な研究対象です。デブリや比較的サイズの大きい宇宙塵の衝突は、地球周回軌道にある実用衛星や科学衛星など人工衛星の安全で安定的な運用のリスクとなります。また、近年開発が進む薄膜太陽電池にとっては 1㎜以下の微小ダストも リスクとなります。さらに、計画が進んでいる月周回有人拠点「ゲートウェイ」や月面基地建設などの有人活動では、宇宙機や宇宙飛行士への月面や月周辺におけるダスト環境情報が不可欠になります。そのため、理学、工学、医学などの学術的観点及び産業の観点からの様々な目的で様々な手法で、ダスト環境理解の試みが精力的に進められています。こうした多岐に渡るダスト研究分野で得られた知見の共有のためには、情報整理が必要不可欠です。

 そこで、第一回となる今回は、観測、実験、数値シミュレーションなどのダスト研究に関わる様々な分野の専門家の方に講演いただき、月ー地球圏のダスト環境について、最新の知見と課題を共有することができました。

 次回以降は、地球周回軌道や月面及び月周辺のユーザの方々に話題提供をしていただき、ダスト環境情報のニーズを把握していきたいと考えています。ニーズに応える形で、すでに分かっている情報をハンドブックのような形としてまとめることを目指します。さらに、これらのニーズを踏まえて、現在進行中あるいは計画中のプロジェクトの成果や観測機会を有効活用することがもう一つの狙いです。

 地上から追跡が難しい微小ダストの分布や軌道予測にはいまだ不定性は大きく、異なる手法から得られる情報のギャップを埋めるべく、さらなる研究が必要です。また、微小ダストの素性を理解するためには、化学組成の情報は不可欠ですが、宇宙空間に漂うダスト粒子の化学組成を直接分析することは技術的に難しく、そのような観測装置は限られます。2024年に打ち上げ予定の深宇宙探査技術実証機デスティニープラス(DESTINY+)に搭載されるダストアナライザ(DDA)は、微小ダストの粒子毎の化学組成、質量、軌道を直接分析することが可能です。デスティニープラス探査機は、イプシロンSロケットで打ち上げ後に、イオエンジンにより、地球周回の楕円軌道を徐々に月まで高度を上げ、月スイングバイにより深宇宙に向かいます。その間に、ダストアナライザが微小ダストを継続的に観測できれば、月-地球圏のダスト環境の実態理解が大きく進むことが期待されます。

(文責)荒井朋子